音楽文化学
Vol.1
イギリスの俊才が集うトッパンホールの六月2008年6月、トッパンホールは7つの主催公演を行う。純粋の主催公演という意味では、都内のホールでおそらく最多だろう。その中核を担うのは、イギリスから招いた4人のアーティストたち。脂の乗り切った円熟の絶頂にあるアンドルー・マンゼ(ヴァイオリン)とリチャード・エガー(チェンバロ)のコンビ。若き異才ポール・ルイス(ピアノ)とダニエル・ホープ(ヴァイオリン)。極めて高い演奏能力を持ち、それを十二分に活かす知性をあわせ持つ才人アーティストという点が共通している。この特徴は同時にイギリスのミュージシャンの特徴とも言えよう。 この4人の中で一番その存在を広く知られているのは、古楽器ヴァイオリン奏者のアンドルー・マンゼだろう。マンゼの名を知らなくとも彼の演奏を耳にしているという方も多いに違いない。かつてオランダと並んで日本の古楽器演奏受容の中心にあったイギリスの古楽器アンサンブルのリーダーとして、敏腕を奮った凄腕のヴァイオリン弾きこそマンゼだった。また長年にわたり彼の相棒を務めるチェンバロ奏者のエガーも、近年はソリスト、指揮者としても世界的に極めて高い評価を得ている注目の演奏家だ。10枚以上におよぶ共演CDで世界各国の賞を総なめにしているマンゼとエガーの競演が、初めてトッパンホールで実現する。プログラムは、それぞれのソロを含め、いままでのアルバムの名曲を集めたような選曲となった。彼らの魅力を端的に、そして余すところなく味わう最高の機会といえるだろう。 超多忙なスケジュールの合間を縫って、トッパンホール公演のためだけに来日するのは、ピアノ界の寵児ポール・ルイス。室内楽ホールの殿堂とも言われるロンドンのウィグモアホールが、シューベルトとベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲演奏会を彼一人に任せるほどの力量と人気を博すピアニストだ。サー・コリン・デイヴィス指揮のもと、現在イギリス最高のオーケストラであるロンドン交響楽団のアメリカツアーのソリストも務めた。明晰なタッチと心地よい躍動感から生まれる鮮やかな音。深刻ぶらずスマートで生命感溢れる音楽が彼の大きな特徴だ。リゲティ20代の傑作《ムジカ・リチェルカータ》では、彼の卓越した技巧と音色の冴えがホールに響きわたることだろう。 4人目のダニエル・ホープは、新世代のヴァイオリニストの中のまさにホープ!イギリスではかつてのナイジェル・ケネディのような人気を博し、コンサートのみならずTV をはじめ様々なメディアで八面六臂の活躍を続け、人気街道を驀進中だ。レーピン、ヴェンゲーロフを筆頭に庄司紗矢香、樫本大進、神尾真由子らを世に送り出した名教師ザハール・ブロンの弟子の中でもひときわ異彩を放つ彼は、切れ味鋭い音色、プログラミングの妙、クロスオーバージャンルでの見事な成果等、ケネディをいっそう知的に洗練させたようなスタイルで21世紀の音楽シーンの先頭を歩く。初来日となる今回、リサイタルを聴けるのは日本中でトッパンホールのみ。多くのファンが待ち焦がれた彼の“なま”の姿に触れる日も近い。
西巻 正史
トッパンホール 企画制作部長
公演の詳細はこちら
・2008年6月06日(金) 〈エスポワール スペシャル 7〉 ポール・ルイス
・2008年6月11日(水) アンドルー・マンゼ&リチャード・エガー ・2008年6月15日(日) ダニエル・ホープ ヴァイオリン・リサイタル |