トップページ > アーカイヴ > インタビュー > Vol7. 緑川まり&市原多朗 インタビュー

アーティストボイス

昼下がりを華麗に彩る、優美にして豊暁な歌の饗宴

市原多朗
 
緑川まり

市原多朗

(テノール)
Taro Ichihara

緑川まり

(ソプラノ)
Mari Midorikawa
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進行=トッパンホール
写真=藤本史昭
圧倒的な美声で世界中のオペラ・ファンを熱狂させてきた市原多朗と、稀有な声と表現力でヨーロッパ・デビューでも大成功を収めた、緑川まり。
強い信頼関係に結ばれた二人が、今回初めて、ピアノとのシンプルな組み合わせで共演します。
イタリア生まれの優美な古典歌曲から十八番のイタリア・オペラまで、豊かな歌声がトッパンホールに満ちる、幸福なひととき―。
熱く愛を歌い上げるお二人に、公演へ向けての思いをうかがいました。
―― お二人は、トッパンホール初登場ですね。ホールで声を出していただきましたが、いかがでしたか?

市原(以下I) : 大変快く歌える、良いホールだと思います。席数が少ないとうかがっていたので、空間も狭く、音響もかなりデッドか、反対に声が響きすぎてお客様の迷惑になるか…などと、初めてのホールでのよくある心配をしていたのですが。
緑川(以下M) : 実際にステージで自由に試させていただいて、響きの良い立ち位置も確認できました。きっとお客様にご満足いただけると思います。

―― 今回のプログラムを含め、お二人にとってのこだわりの曲はありますか?

I : 緑川さんとは、5〜6年前からになりますか、オーケストラでのコンサートでよく共演させていただいていますが、一緒に歌ったいちばんの大曲が、今回のジョイント・リサイタルでも聴いていただくヴェルディの『仮面舞踏会』の二重唱です。
『仮面舞踏会』は、僕の最も多く歌っているオペラで、実在のスウェーデン国王暗殺事件をもとに作られたものです。全編を通じていちばん良いところと言いますか、ヤマ場がこの二重唱の部分です。腹心の部下の妻であるアメリアへの秘めた恋を告白し、二人が禁じられた愛を確かめ合うのを月の光が晧々と照らし出す…という哀しくも美しい場面で、いつ、どこで、何度歌っても、最高の二重唱だという実感があります。
M : このアメリア役は、とりわけしっかりした深みのある声を要求される難役なのですが、市原さんの役、スウェーデン国王グスタフIII世には、それにも増して多くの表現力が求められるので、この盛りだくさんの大二重唱をジョイントで歌われるテノールの方は、あまりいらっしゃらないと思います。このほかの曲目もたっぷり時間をかけて検討し、話し合って選ばせていただきましたので、1曲1曲を大切に良い準備を続けて、しっかりお楽しみいただけるコンサートにしたいと思っています。

―― ステージに向けて、いつも気をつけていらっしゃることなどがあれば教えてください。

M : 身体という楽器が歌うのにいちばん良い時間帯は、みなさんご存知のとおり夜ですので、マチネ公演の時は、うまく身体に「時差」を作ってやらなくてはなりません。私の場合は、3日くらい前から時間調節を始めて、朝型になるようにしています。新人の頃は、夜更かししたりしても翌日平気で声が出たんですけど。オペラなど歌うものが大きくなると、技術・気力・体力…と、いろいろなことがしっかり必要になりますし、精神面―自分をどう演奏に、本番に持って行くかということなども、最近大切に考えるようになりました。
I : 僕は、マチネに照準を合わせるには、出来れば2〜3週間前から朝5時起きして、ヨガ・ストレッチなどを1時間半かけてやります。この、自分なりのヨガ・ストレッチは、よほど具合のワルイ時に休む以外は基本的に毎日続けていますが、これを朝いちばんに行うことで、早く体を起こす習慣をつけてしまう、ということです。

M : 市原さんとのジョイントは、私にとって“自分への挑戦”でもあります。市原さんに、「今回も良かった」と認めてもらいたい、という闘志も湧いてきます。
I : 緑川さんのように器の大きい方との共演は、良い意味で“張りあう”気持ちが湧いてきて楽しいです。「声を張りあう」「音楽を競いあう」というオペラの醍醐味、イタリア音楽の基本みたいな楽しさがありますね。
M : ステージの上で歌っている時に市原さんと目が合うと、「愛」を感じるんです。音楽のやりとりで血の通ったフレーズを渡されると、それを受け取り、どう引き継ぐか、どんな心の込もった音楽を返すか―いわば精神の格闘ですね。今度も、もっともっとがんばって「格闘」するつもりです。
I : ピアノの森島英子さんも、素晴らしい演奏家かつ名伴奏者で、僕らの要求をよく理解してくださって、希望をかなえ、更にそれを超えて見事な演奏をなさる方です。
M : ステージでの共演は「受け身」ではダメ。お互いが与えあい、高めあえれば最高ですね。

―――コンサート、本当に楽しみです。ありがとうございました。

(2003年7月 トッパンホールにて)