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アーティストボイス

大山平一郎

大山平一郎 インタビュー

 Heiichiro Ohyama
 聞き手=トッパンホール
巨匠・園田高弘が最も信頼する指揮者、大山平一郎。かつて、名指揮者カルロ・マリア・ジュリーニに認められロサンゼルス・フィルの首席ヴィオラ奏者に就任。現在は九州交響楽団常任指揮者として数多くの名演を生んでいる。ジュリーニの薫陶を受けジュリーニの音楽のエッセンスを色濃く受け継ぐ指揮者は、オリジナルメンバーで臨むニューイヤーコンサートにどんなイメージを描いているのだろう…。ホームグラウンドの福岡でくつろぐ大山氏に、今回の演奏会への意欲を語っていただいた。
―― 7月の園田高弘さんのベートーヴェン・ツィクルスでは、ヴィオラでご出演いただいています。トッパンホールにはどんな印象をお持ちですか?

 「いい演奏をさせてもらう要素が揃っているホール」ですね。音楽家にとってこれは、ものすごく重要なことです。音楽は瞬間芸術であり空間芸術なので、我々は、その時ごと一回かぎりの修正が利かないもので評価されてしまう。したがって、本当なら完璧な環境のなかで評価されたいわけですが、世の中には弾きにくいホールというのもある。たとえば、音が創りにくいホール、アンサンブルで音が溶け合わないホール、自分達が集中しているのにお客さんが集中しにくいホールなどなど…。トッパンホールはこの対極にあると考えればよいでしょう。客席に座った感じも、音楽を聴くことに没頭できる印象があっていいですね。

―― 今回の公演について伺っていきたいと思います。

 我々は普段、大きなコンサートホールで大きな編成で演奏していますが、それは、それぞれの曲が作曲され初演されたときと規模が異なっています。今回は、曲が本来の美しさを無理なく響かせられる空間と編成になっていますから、内面性やその充実といったところが引き出されるでしょう。日頃、大きなホールで大きな音を出そうと無理をしているメンバーには、音楽家としていちばん嬉しく厳しい要求が突きつけられるわけですね。

―― 今回指揮される2曲についてお話いただけますか?

 シューベルトは、ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェン、ロッシーニの4人の作曲家を自分のアイドル(理想)としていたといいます。最初の4つの交響曲にはハイドン、モーツァルトの影響が感じられ、「未完成」「グレート」にはベートーヴェンの影響が色濃く見える。そんな中で、今回演奏する5番のシンフォニーは、彼が強く影響を受けたもう一人の作曲家であるロッシーニの作曲手法、作風をイメージしながらシューベルト的色彩で描かれた曲だと思います。僕にとっては、古典の交響曲の中でも最高峰の1曲です。オケの出す一つ一つの音すべてが必須の要素で、無駄な音がひとつもない。「輝かんばかりの、小さいけど、すばらしい宝石」といった趣きの交響曲です。
 ベートーヴェンの協奏曲は…う〜ん、筆舌に尽くしがたい。どんな言葉を尽くしても、たとえば冒頭の1フレーズの方がより多くを語っている。ここでは、言葉は音楽にかなわない。

―― 共演のソリストのみなさんについては、どんな印象をお持ちでしょう?

 園田先生と久保田巧さんは、ご両人ともベートーヴェンが人生を送ったドイツやウィーンに長く住んでいて、ベートーヴェン解釈の第一人者。久保田さんは、偉大なベートーヴェン弾きである師、シュナーダーハンの伝統を継承している方でもあります。そして、園田先生が認めた藤森亮一さん。いいメンバーです。ベートーヴェンがいろんな意味で意欲的な時期に、はちきれんばかりのエナジーを注いで書いた曲を弾くには、理想的な顔ぶれが集まりました。園田さんを軸に私も含め、4人がベートーヴェンという偉大な山の頂点を同じ方向から見ている印象があります。どんなに素晴らしい演奏家が集まっても、同じ方向から同じものを見ることができなければ名演は生まれません。今回は企画当初から、ベートーヴェン解釈が一致するメンバーでチームが組まれていますが、こういうことは滅多にありません。ここまで、我々演奏家個々人の心情を知ったうえで企画されたものであるということが、何よりも嬉しい。リハーサルで最初の音を出した瞬間、今回の企画の成功を確かめられるに違いないと思っています。

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―― 今回は、オリジナルメンバーによるチェンバー・オーケストラを組みました。

 音楽の演奏というのは、人と人との触れ合いです。みんなが一緒に一つの方向に向かわなければいけないと感じて、そうしよう!と思ったときに、いい演奏が生まれる可能性が見えてくる。今回の場合は企画立ち上げの時点でそれが始まっていて、一人一人のプレーヤーが非常に注意深く選ばれています。技術はもちろんのこと、その人の音楽に対する誠実さ、人物までを見て選ばれたメンバー。「料理」でも、素材を揃える段階からいいものが作れるか否かが決まる。それと同じです。最高のものを求めるときは、素材選びから仕込み、味付けまで大変な手間がかかるけど、音楽もそれとまったく同じ。誰がどういう風にベートーヴェンやシューベルトを感じ、どういう風に弾くか、という点まで考慮され選ばれているし、リハーサルもすべてホールで行われます。徹底ぶりが稀な企画だと思うし、素晴らしい環境、条件、状態で演奏家が挑戦できるコンサートだと思っています。

―― 最後に、お客さまへひとことお願いします。

 私個人にとっても、参加する若い演奏家にとっても、今後のプロ生活の中でその経験が活かされていく貴重なコンサートになると期待しています。才能だけでなく、技巧だけでなく、本当によい演奏をするためには経験が必要。世界を視野において勉強している若いメンバーが集まった先頭に、園田先生がいてくださるのも非常に貴重なことです。でもこれも、サポートしてくれる聴衆の皆さまがいて初めて実現できること。すごく感謝しています。そういう皆さまに支えられ、何かが起きそうな予感のするコンサートです。

チェンバー・オーケストラ メンバー(五十音順)
ヴァイオリン 相原千興 / 青木 調 / 江島有希子 / 扇谷泰朋 / 甲斐摩耶 / 鎌田 泉 /
柴田 壮 / 島田真千子 / 清水英理子 / 白井 圭 / 菅沼ゆづき / 林 七奈
ヴィオラ 赤坂智子 / 木佐貫美保 / 須田祥子 / 馬渕昌子
チェロ 植木昭雄 / 大橋純子 / 水谷川優子 / 山本祐ノ介
コントラバス 竹田 勉 / 中田延亮
フルート 佐久間由美子
オーボエ オットー・ヴィンター / 中根庸介
クラリネット 鮫島 薫 / 鈴木豊人
ファゴット 一戸 哲 / 松木葉子
ホルン 阿部 麿 / 猶井正幸
トランペット 杉木 馨 / 杉木淳一朗
ティンパニ 近藤高顯
After Interview
巨匠・園田高弘が最も信頼し敬愛する指揮者、大山平一郎。師・ジュリーニばりの深い楽譜の読みと、オーケストラ・トレーナーとしての優れた腕前をもとに、細部まで彫琢された音楽をつくり上げるマエストロです。静かなたたずまいの中にも、作曲家への畏敬の念と九州男児らしい内にたぎる血の高まりを感じさせるお人柄が魅力。ベテランから若手まで選り抜きの音楽家たちが集う、今回の「つわものオケ」も揺るぎなく統率し、ソリストとぴったり息の合ったベートーヴェン像、シューベルト像を生みだしてくれるに違いありません。新しい年のはじまりに、エネルギーに満ちた音楽がトッパンホールで輝きます。乞うご期待!
トッパンホール ニューイヤーコンサート
〈ベートーヴェンとシューベルト 第1回〉
大山平一郎指揮 チェンバー・オーケストラ
2004年1月9日(金)19:00
園田高弘(ピアノ) / 久保田巧(ヴァイオリン) / 藤森亮一(チェロ)
シューベルト:ピアノ五重奏曲 イ長調 D667「ます」より 第4、第5楽章(1819?)
シューベルト:交響曲第5番 変ロ長調 D485(1816)
ベートーヴェン:ピアノ、ヴァイオリンとチェロのための三重協奏曲 ハ長調 Op.56(1803-1804)
■一般 7,000円 / 学生 3,000円
 〈ベートーヴェンとシューベルト〉シリーズ全5公演セット券あり
※9日公演終演後に、会員限定レセプション(1,000円)をご用意しています。