トップページ > アーカイヴ > インタビュー > Vol15. アンドレアス・シュタイアーの魅力 寄稿:伊藤深雪(1/2)

アーティストボイス

アンドレアス・シュタイアーの魅力

アンドレアス・シュタイアー
伊藤深雪 平井千絵
シュタイアーの最初の日本人の弟子であり、親友でもある伊藤深雪さん、また、昨年日本での初フォルテピアノ・リサイタル&室内楽で素晴らしい演奏を披露した平井千絵さんからの、アンドレアス・シュタイアーについての寄稿です。
闊達な精神の発露―シュタイアーの魅力 伊藤深雪
アンドレアス・シュタイアーの演奏を初めて聴いたのは、1980年代半ばのことだった。当時、私はドイツのケルンの音楽大学でモダン・ピアノの勉強を終えたばかりで、フォルテピアノを始めたいと思い、オランダへ行こうかどうしようかと迷っていた。ちょうどその頃、ケルンのフィルハーモニーホールで、ムジカ・アンティクワ・ケルンのコンサートがあって、アンドレアスのチェンバロを聴いたのだった。
その夜、ブランデンブルク協奏曲の第5番が演奏されたのだが、第一楽章のカデンツァになって、2000人を収容する大ホールを埋め尽くす満場の聴衆が彼のソロに釘づけになった。よく知っているはずの曲なのに、まるで初めて聴いたような新鮮さを感じ、シュタイアーの内面から湧き上がるパッションとともに生み出される、霊感に満ちた、「凄み」のある演奏に衝撃を受けた。

「この人に習いたい」「この人と知り合いになる!」そのとき、私は心に決めた。アンドレアス・シュタイアーという音楽家との出会いは、私にとってそれほど運命的なものだった。でも、彼が弾いているのはチェンバロだし、習いに行くといっても‥、と思っていたら、ほどなくして彼がフォルテピアノのリサイタルを開いた。アンドレアスはフォルテピアノを始めたばかりで、そのリサイタルは彼の事実上のフォルテピアノ奏者デビューだったのだ。そのときに弟子入りを申し込み、以来、アンドレアスとの付き合いもかれこれ10数年になる。
その間、彼はムジカ・アンティクワ・ケルンからレザデューのメンバーに変わり、その後独立してソロの活動をたくさん行なうようになった。フォルテピアノ奏者としても、ドイツ歌曲の伴奏も含めて、めきめき頭角を現し、今ではヨーロッパで最も人気の高いチェンバロ奏者、フォルテピアノ奏者であり、日々多忙をきわめている。

アンドレアスの演奏は、とにかく主張がはっきりしていて、迷いがない。そして唯一無二のオリジナリティがある。曲のすみずみまで熟知していて(楽譜の表面上のことに加えて、感情的な側面まで)、なおかつその上にきらりとしたひらめきがある。つまり、知情意のバランスがものすごくいいのだ。それが確固としたテクニックの上に成り立っている。フォルテピアノでいえば、その変幻自在の音色の多彩さは定評のあるところだが、それがいつも感情表現と直接つながっているから、すごく説得力がある。これは彼の演奏がとてもドイツ的だということなのかもしれない。

人となりについていえば、なによりもその精神の活発さ!ドイツ語にノイギーリヒ(好奇心旺盛、興味津々、といったような意味)という言葉があるが、まさに彼は良い意味で「ノイギーリヒな人」である。文学から歴史、建築物にいたるさまざまなことに興味があり、実際よく知っている。それから、ユーモアのセンスがあって、チャーミングで、神経がこまやかで、ものすごく真摯(マジ)なところがある。そんな人となりと彼の音楽が直結しているのも、彼の演奏の魅力である。だから、アンドレアスの演奏はユーモアがあって、神経がこまやかで、ものすごくマジなのだ。

実をいうと、私自身ここしばらく彼のライヴに接していないが、最近のCDを聴くと、ますます円熟味を増してきたように思える。久しぶりの来日に、今からわくわくしている。