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アーティストボイス

〈エスポワール〉を通して、自分のキャパシティを広げたい
大萩康司 インタビュー

大萩康司 インタビュー

 Yasuji Ohagi
 聞き手=トッパンホール
 撮影=藤本史昭
若手音楽家のさらなるステップアップのために、3回のステージを提供する〈エスポワール〉。第3弾アーティストは、際立った存在感とその成長が注目され続ける、ギターの大萩康司です。8月のスタートを前に、ギターとの出会いからパリ留学のこと、シリーズへ向けての心境などを聞きました。
―― ギターを始めたきっかけをお聞かせください。

 母親や兄がやっていたのを見ていて、自分もやりたいなと思って始めました。8歳か9歳ぐらいだったと思います。そもそも、ギタリストとして仕事をすることがどういうものなのか、想像もつきませんでした。ごく普通の一般家庭で育ちましたから、ギタリストになることへの意識がなかったんです。ただ、「ギターが上手くなりたい」とずっと思っていましたね…。ギターを始めた頃は、まずアンサンブルのクラスに入ったんです。まわりの人たちは、幼稚園からやっているから、みんな上手くて…。すごく悔しくて、学校のクラブ活動も、家に帰ってからも、ギターの練習ばかりしていました。習い始めて1年ぐらい経った頃から、ソロの曲も練習するようになりました。

―― 高校を卒業して、すぐフランスへ留学されました。

 ギタリストであり、私の先生でもある福田進一さんから「卒業したら、どうするの?留学するの?」って聞かれて、「そうだ、そういう道もあったんだ」って思ったんです。それまでは、普通にどこかの大学に入って、勉強しながらギターを弾いていけばいいかな…って(笑)。でも、やるからには身を投じる覚悟じゃないとだめだと思い、留学することにしたんです。最近になって母ともよく話をするんですが、経済的にすごく余裕があったわけじゃありませんでしたから、両親が快く留学を許してくれたことは、すごく有り難かったなって思います。

―― パリを留学先に選んだ理由は?

 福田さんがエコール・ノルマル音楽院に留学していたたことを聞いていたので、自分自身で他の学校も見たうえで、どちらにしようか決めようと思いました。だけど、初めてパリを訪れた時の町の様子や、そこで受けたレッスンの印象が良かったことが選んだきっかけとして大きかったです。また、エコール・ノルマル音楽院とパリ高等音楽院の両方で5年という時間が、自分の目標を達成するのにいい長さだと思ったからです。

―― 初めての海外生活だったんですよね?

 もちろん、海外生活も、一人暮らしをすることも初めてでした。でも不安より好奇心の方が大きかったです。言葉を覚えるのは、ひとつひとつ辞書で探すとか、ラジオやテレビを見るとか、いろいろやりました。生活面で、いろいろトラブルも経験しましたけど、人に頼ってばかりではだめだということは教訓のひとつですね。

―― 留学中は、ソロのクラスだけでなく、室内楽も学ばれたと伺っています。

 室内楽のクラスは、最初はすごく緊張しました。一緒に演奏する楽器の音の出し方や呼吸の取り方が、それまで一人で好き勝手に弾いていた時と全然違うので、戸惑いました。演奏している途中で、どうしてこんなに間があくんだろうとか…、分からなくて焦ったこともあります。その頃から教会の聖歌隊に入っていて、日曜のミサで聖歌を歌っていたこともあります。楽譜の初見の勉強にもなったし、呼吸法やフレーズ感が体感できたのが良かったと思います。そういった感覚をギターでは同表現するかを教わったのは、オスカー・ギリアからでしたね。今も、まだまだ勉強することは多いと思っていますから、「この人に習いたい!」と思った時に、直接その人のところまで行って、教わる姿勢は大切にしていきたいと思っています。

―― 98年にハバナ国際コンクールで第2位に入賞されました。その頃から中南米への関心は高かったんですか?

 中南米の音楽に興味をもったのは、賞をいただいた頃からです。その頃、ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブが流行っていて、「いいな」と思って、いろいろ曲を探し始めたのがきっかけです。まずはブローウェルの作品を集め、そこからどんどん広がっていきました。ハバナは、今年の5月にも行ってきました。毎回、コンクールだけでなくフェスティバルも開催されていて、たくさんの演奏家がブローウェルに会いたくて集まってきます。皆、彼のカリスマ性にひかれるんだと思います。凄いギタリストたちが一同に会して、連日演奏会をしているので、自分自身、参加することで多くのものを吸収しています。

―― トッパンホールには、昨年12月のクリスマス・コンサートにご出演いただきました。ホールの印象をお聞かせください。

 音がホールの壁を伝ってダイレクトに届く空間ですね。どこに座っていても、良く聞こえるホールだと思います。ステージでも、自分の弾く音がしっかり耳に届くので、一音一音大切に弾かなくてはと、演奏していて気合がはいります。

―― トッパンホールからエスポワール・シリーズの話を聞いた時、どんなことを思いましたか?

 3回のステージをいただけるなら、これまでのコンサートでは取り上げにくかった曲をやって、自分のキャパシティを広げられるようなコンサートにしたいと思いました。「現代」「古典」「室内楽」のテーマで、これから3年間に渡って演奏していきたいと思っています。

 第1回は、1950年以降の現代作品を集めました。選曲した曲は、どれも聞きやすい曲じゃないかな。作曲された時代に関係なく、どんな作品でも旋律の中に必ず歌が隠れています。自分でも常に歌を意識して演奏していますし、お客さまにそれが伝わったら、すごく嬉しいですね。今回演奏する曲についてお話すると、まずタンスマンの組曲「カヴァティーナ」は、ギタリストのセゴビアから依頼されてタンスマンが作ったものです。もともと4曲の組曲だったのですが、セゴビアが「もう1曲、華やかな曲を」とリクエストして、5曲目の「ダンサ・ポンポーサ」が作られました。そういった経緯から、この5曲は一緒に演奏されることが多いです。つい先日、エドゥアルド・フェルナンデスから教えてもらったのですが、「ダンサ・ポンポーサ」は"すごく高貴で格調高い"ダンスのようです。そういったそういった曲の背景を知るのも楽しいですね。また、ブリテンの作品は、16世紀の作曲家ジョン・ダウランドが作った歌「Come, heavy sleep」がもとになっていて、その旋律が随所に現われますし、ヘンツェの曲もとても歌的。後半の渡辺香津美さんの作品は、ご本人に「アストラル・フレイクスが若返った」と言っていただいた、嬉しい記憶があります。この曲は、山下和仁さんのために作られ、その後、福田進一さんや鈴木大介さんが演奏されていましたが、あまり多くは演奏されてこなかったと思います。とても綺麗な曲だし、そろそろ自分が演奏してみてもいいかなっと思って、最新のCDにも録音して、よく演奏会で弾くようにしています。それと、藤井敬吾さんの「羽衣伝説」。沖縄民謡の旋律がモチーフになっている曲で、その民謡の作曲者の奥さまから話を伺ったり、沖縄で資料を探したりして、イメージをつくりました。
 第2回は、古典作品でアイデアを練っているところです。最近、19世紀ギターを手にいれたので、ぜひそれを使って演奏したいですね。歌とソロの演奏を組みあわせたプログラムにしてみたいな、と思っています。第3回は室内楽をテーマに、ギター五重奏曲やソロ、デュオのプログラムを考えています。どちらも、これまで弾いていない曲ばかりになると思うので楽しみにしていてください。

―― お客さまにメッセージをお願いします。

 大切な時間とお金をかけて来ていただくので、リラックスして楽しんでいただけたら嬉しいな、といつも思っています。自分は、楽しんでいただくための準備をしている感じですね。エスポワール・シリーズでも、自分の可能性を模索しながら、お客さまには心から音楽を楽しんでいただきたいです。

―― ありがとうございました。これからの3回の演奏会、楽しみにしています。

〈エスポワール〉
大萩康司
Vol.1 ―現代に生きる

2004年8月25日(水) 19:00
大萩康司 (ギター)
アレクサンドル・タンスマン:組曲「カヴァティーナ」
アレクサンドル・タンスマン:ダンサ・ポンポーサ
ハンス・ヴェルナー・ヘンツェ:三つのテントス
ベンジャミン・ブリテン:ノクターナル Op.70
モーリス・オアナ:ティエント
渡辺香津美:アストラル・フレイクス
藤井敬吾:羽衣伝説 ―山入端の旋律に基づく―
■一般 4,000円 / 学生 2,000円
Vol.2 ―古典
2005年8月25日(木) 19:00
Vol.3 ―室内楽
2006年8月25日(金) 19:00