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アーティストボイス

音楽を現代へと繋ぐ、重要な近代作曲家の作品を集めました。
インタビュー

永野英樹 インタビュー

 Hideki Nagano
 聞き手=トッパンホール
 撮影=藤本史昭
永野英樹
パリを拠点に活動する永野英樹は、巨匠・ブーレーズ率いる超名手集団"アンサンブル・アンテルコンタンポラン"のピアニストとして広く知られる、近現代音楽のスペシャリスト。今回のリサイタルでは、音楽史上のひとつの転換期・20世紀前半に着目したプログラムで、それぞれの作品と作曲家、ピアノという楽器に繊細かつ力強く迫ります。夏の休暇で帰国の折、パリでの活動から今回の公演についてまでを聞きました。
―― 留学先にパリを選んだ理由からお聞かせください。

 ヨーロッパで勉強したい、というのは高校の頃からありました。パリに暮らす知人がいて情報が入手しやすかったことと、先生にも賛成していただけたので決めた感じです。

―― コンテンポラリーに興味を持ったのは、パリへいらしてからですか?

 いえ、中学2年か3年くらいだと思います。当時聴いたFM番組に、20世紀のピアノ音楽を特集したプログラムがあって、耳新しくて面白い、と思ったのが始まりです。その後、芸大の付属高へ進んで作曲科の友達とつるんだり、合唱の授業で三善晃の作品と出逢ったこともきっかけでした。ただフランスでの当初は、言葉や出不精が理由でコンテンポラリーのコンサートから足が遠のいてしまって。フランスにいながら、当時の最先端音楽には触れていませんでした。
 意外かも知れませんが、コンセルヴァトワールでは、先生がどちらかというとドイツ・ロマン派を弾く方でしたし、ベートーヴェンやハイドン、シューベルト、シューマン、ショパンなど、クラシックなものを主に学んでいたんです。

―― その後の、アンサンブル・アンテルコンタンポラン入団にあたっては、それなりの覚悟をお持ちだったと思います。

 それが、少し違うんです。当時は、クラシックなものを勉強するスタンスを変えていませんでしたので、無論、アンサンブル(・アンテルコンタンポラン)の活動や名前のある音楽家の集まりだということは知っていましたが、持っていたCDも必要に迫られて買った1枚、という程度でした。95年の夏、たまたま送られてきた入団オーディションの要項を見て応募したのですが、直前に受けたコンクールが一次でおしまいになったショックで、オーディションの準備は手つかずでした。ところが、一週間前にある先生に聴いてもらったら"準備ができればねぇ、チャンスはあると思うんだけど"という意味のことを言われて。突如やる気が出て、集中して練習したんです。一次の出来は上々で、その日のうちに電話で結果がきました。翌日のファイナルは朝8時からで、ブーレーズ本人がいましたからすごく緊張して。通るとは思わず「永野さん」と発表されたときには、かなりびっくりしましたね。コンテンポラリーから離れていましたので、その後"これからこんなものばかりやらなきゃいけないんだ"という恐怖にも襲われました(笑)。入団までの間に慌てて、初めて、アンサンブルのコンサートに行きました。「ああ、みんな上手いんだなぁ」と、余計に震えがきましたね(笑)。
 それから現在まで、団を中心に活動しています。それ以外では、リサイタルもしますが室内楽が多いですね。クラシックな曲から新しいものまで混ぜたプログラムで演奏することも多いです。特に日本では演奏会の回数が限られますから、できるだけ両方聴いていただけるよう努力しています。

―― その点今回は、敢えて焦点をひとつに絞ったプログラムにしていただきました。

 10年くらい前までは20世紀作品がまだひと括りにされていた感もありましたが、最近は1950年――戦後とそれ以前の違いが、ちゃんと認識されているように思います。今回演奏する戦前のものは、どの曲も今やクラシックですね。20世紀前半の、音楽史上とても大切な過渡期に活躍した彼ら無くしては、その後のメシアンやブーレーズはあり得なかっただろう、という作曲家たちの作品です。そこをポイントにしました。現代の作曲家に共感を持っていただくための、いい橋渡しになるんじゃないかな。

―― 今回は、「ペトルーシュカを弾いていただきたい」というお願いから始まりました。

 来たなぁ!と思いました。技巧的に難しいだけのものは避けたいと思っているんですが「ペトルーシュカ」はそうではありませんから、取り上げてみたい作品だったのです。ただ、ほかの曲との組み合わせ方が難しかったですね。ラヴェルの「高雅で感傷的なワルツ」を入れると決めたところから、開けていった感じでした。ペトルーシュカと同じ時期に作曲されてスタイルも似ていて、どちらもバレーの曲という"繋がり"が見えたのが大きかったですね。

―― そこから1911年とその前後、と。

 バルトークだけ若干離れていますが、シェーンベルクも1911年ですし、まさに時を同じくして、作曲家たちがところを変えてこれらの曲を書いた感があります。音楽史のうえで大事な作曲家が、歴史的意味のある曲や名曲を、多く生んだ時期ですね。
 今回のプログラムは聴きにくいものではありませんし、実際の耳なじみもクラシックなものばかりです。モーツァルトやブラームスなどからしたら、確かに一歩も二歩も先に行っていますが、新しい響きに慣れていただいて、さらにまたもう少し新しいものを、と興味を持たれたら、ぜひその先を聴いていただきたいな、と思います。

―― 永野さんは、とてもよい水先案内人だと思います。演奏会、楽しみにしています。

永野英樹 ピアノ リサイタル ―20世紀前半を彩った作曲家たち
2004年11月12日(金)19:00
永野英樹 (ピアノ)
ドビュッシー:「12の練習曲」から
シェーンベルク:6つのピアノ小品 Op.19
ラヴェル:高雅で感傷的なワルツ
バルトーク:9つのピアノ小品
ストラヴィンスキー:「ペトルーシュカ」からの3章
■一般 4,500円 / 学生 2,000円