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アーティストボイス

人の声のように、ヴァイオリンで歌を奏でたい
ヴィヴィアン・ハグナー
PHOTO:CHRISTIAN STEINER
インタビュー

ヴィヴィアン・ハグナー インタビュー

 Viviane Hagner
 聞き手=トッパンホール
トッパンホールの若手支援シリーズのうち、海外に視野を持つ〈エスポワール スペシャル〉。推挙されるアーティストには、つねに高い注目が集まっています。ともに日本初リサイタルで素晴らしい技量と熱演を披露し大きな成果を残した、ユリア・フィッシャー(Vn)、ルノー・カプソン(Vn)に続くのは、ヴィヴィアン・ハグナー。知的で端正な印象そのままの音楽を聴かせるヴィヴィアンも、今回が日本初リサイタルです。本公演のためだけに来日する彼女に、これまでのプロフィールと公演への意気込みを話してもらいました。
―― 楽器を始めた頃のことを聞かせてください。

 3歳でピアノを習い始め、ヴァイオリンを始めたのは4歳の時です。誕生プレゼントに楽器をもらったのがきっかけです。

―― 妹の二コルさんはピアニストとして活躍されています。

 私がピアノとヴァイオリンを習い始めると、すぐ妹も同じことをしたがりました。家には1台しかピアノがなかったので、私たち姉妹はよくピアノの両端に並んで座り、一緒に弾いて遊びました。それぞれの楽器をマスターしていく過程で、ヴァイオリンとピアノ、2本のヴァイオリン、2台のピアノ…、いろいろな組合せで演奏しましたね。もちろん、多くの音楽仲間に出会い、彼らと一緒に演奏することはとても楽しいですが、妹とは、今でも互いに一番自然な状態で音楽づくりが出来ます。多分、私たちが同じ家庭に育ち、たくさんのことを分かち合ってきたからに違いありませんが。今年の5月には、ドイツでベートーヴェンの三重協奏曲を2人揃って演奏する予定です。

―― 子供の頃、印象に残った演奏や演奏家はいますか?

 子供の頃には、たくさんの音楽を聞きました。そうですね、特に印象深く覚えているのは2つ。ひとつはオペラ「椿姫」。初めて見た時、あまりの音楽の美しさに、自分でも驚いたのですが、思わず涙がこぼれました。それ以来、演奏する時には、ヴァイオリンの音色が人間の声の響きに近づけられるよう、心がけるようになりました。もうひとつは、車のラジオから流れてきたハイフェッツの演奏を聞いた時のことです。確か6歳か7歳だったと思いますが、ハイフェッツは、私が誰の演奏か当てることができた最初のヴァイオリニストでした。

―― これまで、A.ヤッフェ、T.ブランディス、V.リーバーマン、P.ズーカーマンと4人の先生のもとで勉強されてきました。

 ヴァイオリンの礎となることをたくさん学びました。最も大切なことをひとつずつ挙げてみますね。まず、私の最初の先生だったヤッフェ氏は、基礎的なテクニックを全て教えてくれましたし、私がやりたいと思った曲を次々弾かせてくれましたので、飽きるということが全くありませんでした。次に、リーバーマン氏は、協奏曲であれソナタであれ、常に楽譜からスタートする大切さを教えてくれました。コンサートマスターと指揮者、両方の経験と知識を持つ彼の指導のおかげで、私は音楽への理解を深めることが出来たと思います。そして、ブランディス氏は室内楽に非常に熱心で、私自身、室内楽の作品に強く惹きこまれました。彼からは、常に原典版に立ち返ることの大切さを教わりましたし、何よりも、たくさんの励ましと喜びをもらいました。そして、ズーカーマン氏の場合ですが、レッスンで彼の演奏を聞けること自体、大きな刺激であり喜びでした。基本的なテクニックはもちろんですが、彼が大切にしているポイントは、音楽的なハーモニーの流れと同様に、曲のテンポの流れを考えることです。

―― ズーカーマン氏とは、現在コンサートで共演もされていますよね?ズーカーマン氏のもとで勉強することになったきっかけを教えてください。

 ズーカーマン氏には、ずっと会いたいと思ってきましたし、彼の前で演奏したいと思っていました。彼の音楽が好きでしたし、ヴァイオリニストとして、ヴィオラ奏者として、また指揮者としても活躍する彼の才能を尊敬していました。ある日、ベルリンで彼のコンサートがあったのですが、ペドロ・クランツ氏から電話があり、「コンサートの後に彼の前で演奏してみないか」と言われました。準備する時間はほとんどなかったんです。とても緊張しました!彼の前で少しだけ演奏し、それからしばらくして、イスラエルのマスタークラスに招待してくれました。その後、ニューヨークに行き、彼のもとで勉強を始めたんです。1年目の終わり頃、ニューヨークで行われた「モーストリー・モーツァルト・フェスティバル」に招待され、ズーカーマン氏と「協奏交響曲」を演奏することになりました。また、そのコンサートは更に思い出深い公演だったのですが、その数日前、日本音楽財団からストラディヴァリウス「サッセルノ」を貸与されたばかりでした。実は、「サッセルノ」は、私が貸与された1999年7月までの94年間、誰にも演奏されず、大切に保管されてきた楽器だったんです。

―― 1990年、イスラエル・フィルとベルリン・フィルの歴史的な合同演奏会で、国際的にデビューされました。当時、14歳でしたね?

 当時のことは、よく覚えています。あの公演は、私にとって初めての海外公演でした。もちろん、イスラエルに訪れたのも初めてだったし、オーケストラと一緒にツアーをするのも初めてでした。とにかく素晴らしい経験で、ズービン・メータ氏とイスラエル・フィルからは多くのサポートをいただきました。驚くほど美しい彼らの演奏に、とても魅了されました。あの時こそ、私がプロのヴァイオリニストになろうと決めたターニング・ポイントです。その後も、メータ氏からいろいろなサポートやアドヴァイスをいただいています。例えば、イスラエル・フィルのソリストして再度呼んでくださったり、バイエルン国立歌劇場管弦楽団と共演する機会をいただきました。

―― 室内楽もよく演奏されています。作品に取り組むときに大切にしていることは何ですか?

 最初に作品に取り組む姿勢は、ソロも室内楽も同じだと思います。作品の音楽的構造を出来る限り理解し、次の作業としてデュナーミク(強弱法)やアゴーギク(速度法)の解釈や、フレーズごとの運指やボーイングなど、細部に渡って綿密に作っていきます。このような作業は、「話し合う」時間がないほど忙しくても怠らず、しっかり作ることが大切です。また、他の演奏家と室内楽の練習をする時、特に効果的ですが、常にいくつか違う方法でやってみることが大切だと思います。一緒に弾く人たちと、作品に対する基本的な考えが同じであれば素晴らしいことですし、作品の細部を紐解いていく楽しみもあります。ただ一方で、全く違った意見に固執することで、音楽的に説得力を持たせることもあります。

―― これまで何度か来日されていますね。

 これまで東京、大阪、京都と日本の南の都市に行ったことがあります。日本のお客様は、音楽に対して深い理解力と高いレベルで聞き分ける力があると思います。クラシック音楽への熱意や、演奏家に対する誠実さは目をみはります。私は音楽家として多くの国を訪れていますが、演奏家に対する日本の方々のサービスはいつも素晴らしく、大変感謝しています。唯一、日本に来て「困ること」と言えば、日本食とお茶が目がないくらい、大好きだということでしょうか!もちろん、日本で再び演奏できるのは楽しみですが、実は新しいお茶を買ったり、日本食を食べられることが、今からとても楽しみなんです。

―― 4月のリサイタルについてお話を伺います。

 バルトークのソロ・ソナタを勉強する前に、「コントラスト」や「協奏曲第2番」など、彼の作品をいくつか勉強していました。このソナタは、バルトークの音楽的言語が多く含まれているというか、彼の独自性をとてもよく表しています。また、無伴奏ということに関わらず、これほど多くの技術的な課題を含んでいる作品には出会ったことがありません。「Uncompromising(妥協のない)」作品といわれるのは、恐らくバルトークが技術的な理由を盾に、作曲に対して妥協することが全くなかったからだと思います。ただし、この曲は、メニューインのリクエストにより、バルトーク自身の手で、四分音の旋律から全音階や半音階旋律に至るまで、最終楽章の重要な箇所を書き換えています。私がバルトークの音楽について素晴らしいと思うのは、音楽構造的に複雑な時でさえ −例えば、シャコンヌやフーガの形を指定していたり、十二音技法を使うといったことですが−、彼の音楽は決して分析的にならず、むしろそれが自然に聞こえることです。
 また、後半のR.シュトラウスのソナタは大好き曲のひとつです。エネルギーにあふれ、華麗な表現に富んでいますし、ヴァイオリンのことをよく理解して書かれていると思います。昨年マルボロで、シュトラウスのピアノ四重奏を演奏しました。四重奏曲は、ソナタと同様シュトラウスの若い頃の作品です。若かりしシュトラウスが作り上げた作品に触れ、そこから後年の作品への繋がりを随所に感じられたことは大変興味深い経験でした。ソナタや四重奏曲のような初期の作品からは、確かに「ばらの騎士」を彷彿させるフレーズが聞こえてくるはずです。

―― 今回が日本で初めてのリサイタルですね。

 リサイタルは、オーケストラと協奏曲を演奏する場合とまったく違います。協奏曲の時は、基本的にヴァイオリンがオーケストラの前に出ることが求められますが、リサイタルのようにより親密な状況では、必ずしもそれが一番大切とは限りません。例えば、ppとpppの違いをきちんと伝えるといったように、細かなニュアンスをしっかり表現するために、より集中することが求められます。また、オーケストラが作る多彩な音色(フルート、ヴィオラ、管楽器など)を、ヴァイオリンとピアノだけで表現しなければいけませんね。
 私は、長年に渡り、日本音楽財団から「サッセルノ」を貸与されていますので、日本の皆さまに、この楽器で演奏を聞いていただけることは大変責任を感じていますし、また光栄に思っています。

〈エスポワール スペシャル 3〉
ヴィヴィアン・ハグナー ヴァイオリン リサイタル
2005年4月25日(月) 19:00
ヴィヴィアン・ハグナー (ヴァイオリン) / 野平一郎 (ピアノ)
ブラームス:F.A.E.のソナタ より スケルツォ
バルトーク:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ Sz117
ショーソン:詩曲 Op.25
R.シュトラウス:ヴァイオリン・ソナタ 変ホ長調 Op.18
■一般 5,000円 / 学生 2,500円 / 会員特別価格 3,000円