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アーティストボイス

バッハ家のクリスマスの団らんは、すごく愉快だったと思います。
インタビュー

平野公崇 インタビュー

 Masataka Hirano
 聞き手=トッパンホール
 撮影=藤本史昭
平野公崇
―― 平野さんはトッパンホール2度目の登場で、今回は「バッハ家に憩う」とタイトルされたクリスマスコンサートにご出演くださいます。トッパンホールの空間でバッハ家、というところに意図はありますか?

 「楽譜印刷」にアイデアを得たことがひとつです。楽譜の印刷がJ.S.バッハ以降一気に広まったという時代背景や、エマニュエル・バッハは楽譜出版と深いつながりがあったこともあります。印刷は偉大な発明のひとつですが、楽譜の印刷も実に革命的なことで、ある土地で生まれた音楽は、それまでであれば限られた範囲内でしか聞けなかったのが、楽譜が印刷されることによって、世界中どこにでも飛んでいけるようになった。また、地域的な広がりだけでなく、時代をも越えられるようになったわけですよね。その楽譜印刷の歴史が始まった頃に生まれたバッハの音楽を、凸版印刷のホールで演奏するのは、なかなか味があっていいのではないか、と考えたんです。

―― “クリスマス”と“バッハ”にはどんなイメージをお持ちですか?

 “クリスマス”は人々にとってどういうもの?と考えると、年に一度の楽しい行事で、たとえば、実家を離れた子どもが久しぶりに帰ってくる、みんなで暖炉の火や美味しい料理を囲んで、温かな家庭の団らんが再現される場なのかなと思ったんです。それをきっと、バッハ家もやっただろうなぁ…と想像して。「親父、おれ最近こんなの書いてんだよ」「どれどれ…」と、親子が音楽を通して会話してたんじゃないかな、というイメージです。

写真 J.S.バッハはアルス・ノーヴァ以降バロックに至るまでの音楽が発展しつくした頂点に位置しています。その後すぐ、古典派といわれるものすごくシンプルなスタイルで、ハイドンやモーツァルトがリスタートを切ります。エマニュエル、クリスチャンというふたりの息子は、父親のバッハと、ハイドン、モーツァルトの間に位置するわけですが、普通なら数百年かかる歴史を、僅か2世代、同じ釜の飯を食う家庭の団らんのなかだけで経験しているのはすごいし興味深いですよね。次男のエマニュエルの作品は、ものすごくロマンティックで強い表現。一方末っ子のクリスチャンの曲には、「これは、モーツァルト?」という印象を受けます。本当のところは、クリスチャンがモーツァルトに大きな影響を与えていたわけですけれどね。ともかく、ものすごく短い時間に密度の高い歴史の変化を経験した三世代、という感じです。なので、バッハ家のクリスマスは、すごいクリスマスでしたよ、きっと。普通の家の小さな暖炉の周りで、知恵と感性と、力と技量とが溢れた…機械があったら録音しておきたいような、とんでもない演奏会があったかもしれないですよね?

―― J.S.バッハは、平野さんに大きな影響を与えた作曲家とうかがっています。

 そうですね。これほどの即興演奏家はいないだろうな、と思っています。即興演奏1回分を毎回曲にしているといえるほど、自然に音が紡ぎだされて終わるという…。作曲をするときには、音がイメージできるまでに時間がかかることもあると思います。それが、彼の場合は、書きはじめたら止まることなく一気に最後まで溢れてくると思えるほどで、作品には全く「作為」を感じないんです。

 古楽器での演奏を聞くのもかなり好きなんですよ。でも自分が演奏する時には、僕が持っている現代という感覚に視点を移して、今の生活の中に置かれたバッハを感じてみたい、表現してみたいと思うんですよね。

―― もうひとりの主役、山田武彦さんについて、お聞かせください。

 ご本人にも言っていないんですが、「エマニュエル・バッハに似てる!」と思ってます(笑)。即興の達人というところといい、風貌といい、一緒に演奏している時の感じといい、とにかくいろんなところが僕の中で被るんですよね。山田さんとは、パリ留学中に出会いました。当時、あまりにも生き生きと即興演奏の面白さを語ってくれたので、僕もとりこになって、気がつくとそっちの道に入っていました。即興をやり始めたきっかけは実は、山田さんとの出会いです。

 その山田さんと、有名なゴールドベルクから、息子のエマニュエル、クリスチャンの作品までいろいろ取り揃えたクリスマスコンサートをお届けします。
 木の温もりを感じさせる響きも気持ちがいいトッパンホールへ、ぜひ、バッハ家の団らんを覗きにきてください。

〈トッパンホール クリスマスコンサート〉
平野公崇&山田武彦 バッハ家に憩う
2005年12月22日(木) 19:00
平野公崇(サクソフォン) / 山田武彦(チェンバロ,ピアノ) /
松野弘明(ヴァイオリン) / 田口美里(ヴァイオリン) / 朝吹園子(ヴィオラ) /
植木昭雄(チェロ) / 黒木岩寿(コントラバス)
C.P.E.バッハ:シンフォニア ニ長調 H585
J.C.バッハ:四重奏曲 Op.19より 第1番 ハ長調
C.P.E.バッハ:ラ・フォリア
J.S.バッハ:「ゴールドベルク変奏曲 ト長調 BWV988」より
■一般 6,000円 / 学生 3,000円 / ペア券 10,000円