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アーティストボイス

音楽家として、いつまでも挑戦者(チャレンジャー)でいたい。そのためのファイナルは、思う存分やりきります。
写真 インタビュー

宮本文昭 インタビュー

 Fumiaki Miyamoto
 聞き手=トッパンホール
衝撃の演奏活動終了発表から約1年。“ベルベットトーン”で人々を魅了し続ける稀代のオーボエ奏者が明かす、音楽家・宮本文昭の思い。
―― オーボエ奏者を引退…、とても残念です。

 そう言っていただけて、大変嬉しいです。いつまでも吹いていたい気持ちもあるのですよ。でもこの先、音楽家として新しい局面を考えていくときに、いったんオーボエを手から離さなければ難しいな、と思ったのです。僕は音楽家でありたい、ということが第一にあって、手段としてオーボエを選びました。日本には道を極めることを美しいとする文化がありますが、このまま行くと“オーボエ吹きの宮本”という概念の外へ出ていけないのではないか、と。一見、引退のように見えるかもしれないけれど、これからも音楽に携わる人間であり続けたい。それに…予想が立ってしまう人生ほどつまらないことはないでしょ(笑)、僕としてはね。なるたけ波乱万丈な人生を送りたい。
 次が決まっているわけではないのですよ。まだ先のことは、まったく何も決めていません。でも、今の年齢なら新しいことをやりはじめられるのじゃないか。僕は団塊の世代で、同世代にはそろそろサラリーマンをリタイアする人たちもいます。その人たちに、まだ新しいことはできるよ、ルネッサンスはあり得るんですよ、と伝えたい気持ちもあります。

―― そうは言っても、もっと演奏を聴かせていただきたかったですが…。

 いつかは終わりがきますから。いずれ、自分で納得できない演奏をするようになるかも知れない。それでも皆さんに大事にされていい気になっちゃうとしたら、いちばんよくないと思うわけです。いつまでもチャレンジャーでいたいですし、オーボエを置けば、そこにまた新しいものがスッと入ってくる感じがしています。もうちょっと違う形で音楽と関わりたい、というパーセンテージが大きくなったのですね。
 皆さんのなかにいい思い出で残りたい、ということもあります。“やめます”と言ったら、“ああ、そうですか”と言われたり、いつの間にか消えちゃってたなんていうのは、自分としてはえらくさびしい。いい状態じゃない自分にお金を払って聴きにきていただきくのもいやですし、もったいないと言われる時期にちゃんと宣言して、時間いっぱい思う存分やりきって、スパッとやめたい。オーボエを教えることだけは、生徒が信用して来てくれる限り続けますが、“教わってもいいことないな”という風にちょっとでもなったら、それもスパッとやめるつもりです。結局は、気持ちよく生きたいということ。それを“カッコいい”と思って後に続いてくれる演奏家がいたら、嬉しいですね。今まで日本にあまりいないでしょう、そういう人。

―― 宮本美学ですね。ファイナルコンサートのうちトッパンホールでは、ちょうど1年にわたって室内楽のシリーズを聴かせてくださいます。

写真 トッパンホールは、音響的にもサイズ的にも、室内楽に非常に向いていますね。気品もあるし、とても気持ちよく演奏できます。ロンドンにもウィグモアホールという室内楽のいいホールがあって、僕もリサイタルをしましたが、そこはルービンシュタインがデビューしたホールで、同じく最後のコンサートもそこでやっています。自分の集大成は、やっぱりいい場所でやりたい。“宮本があの年に、トッパンホールで3回、室内楽のシリーズやったよね”“それ聴いた聴いた”っていうようなことになったらいいかな…。宮本の“One of 最後の姿”をね、室内楽のひとつの形がトッパンホールでできて、皆さんに楽しんでいただけたら嬉しい、と思います。自分の思い出としても、いいホールに声をかけていただいて、それに応えることができて、人生の最期とか、歳を取ってホールの前を通ったときに“あのとき俺、やったよな”と思えるのかな、という。思い通りの終わり方に進んでいる気がします。

―― 宮本さんにとって、室内楽とは?

 音楽全体を俯瞰する力、パートとして光る力、ほかのパートを立てる力、といった力量のレンジをお見せできるものですね。小さい編成でも、作曲家が書いたものと歩みを同じくして音楽を進めていくと、本質的な部分は大シンフォニーとちっとも変わらない、遜色ない内容的な面白味、それをミニマムな人数でできる楽しみが室内楽にはあります。ベートーヴェンの後期のクァルテットなど、交響曲になっても全然おかしくないところがいくらでもあります。その音楽の重みをひとりひとりが冷静な立場から俯瞰して、バランスをお互いが上手に取り合って、音楽の満ち引きすべてに全員が関与して、誰がイニシアティヴ取るというのではなくて、均等に責任がもてる…。その妙というのかな。トッパンホールのような室内楽ホールでなら、表から裏まで全部が聞こえて見られて、ものすごく近いところでそれを体感できます。それが室内楽の面白さ、醍醐味でしょうね。

―― 2回め以降のプランは。

 ひとつには、大きなものを小さな編成でやるというのを、オペラを素材に実際にお聴きいただこうかと考えています。盆栽的な、というかミニチュアを見る楽しみというか…。オペラから、音楽をわかりやすくしている言葉の部分や、声の迫力、装置などを取り去ったら、どんな世界が見えてくるか…。昔はモーツァルトのオペラができたらすぐアレンジされて、舞台を見に行けない、すぐに見られない、あるいはまた聴きたいときに、人を呼んで自分のお城や館でやらせたりしたんですね。そんな気分をちょっと味わっていただきながら、木管の響きの豊かさもワンスプーンで楽しんでいただきたいな、と考えています。
 1年間しっかりやりきって、また新しいスタートを切りたいですね。室内楽シリーズ、喜んで、よろしくやらしていただきます。

宮本文昭 ファイナルコンサート 室内楽1
2006年3月9日(木) 19:00
宮本文昭(オーボエ) / 森枝繭子(オーボエ) / 山本正治(クラリネット) /
近藤千花子(クラリネット) / 岡本正之(ファゴット) / 井上俊次(ファゴット) /
木川博史(ホルン) / 猶井正幸(ホルン)
モーツァルト:管楽八重奏による「フィガロの結婚」名場面集
フランセ:オーボエ、クラリネット、ファゴットのためのディベルティメント
モーツァルト:セレナード第12番 ハ短調 K388(384a)
■一般 6,000円 / 学生 3,000円 ※完売
室内楽2
2006年12月23日(土・祝) 17:00
室内楽3
2007年3月31日(土) 18:00