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アーティストボイス

弟と一緒だと、コンサートひとつひとつが冒険のよう。未知の世界へと踏み出していけます。
写真 インタビュー

ルノー・カプソン インタビュー

 Renaud Capuçon
 聞き手=トッパンホール
トッパンホールで鮮烈な日本リサイタル・デビューを飾ったルノー・カプソンが、再登場。最良のパートナーと奏でる、新しさと自由に満ちた、弦楽器デュオの喜び。
── 弟のゴーティエさんとのデュオは、日本では初めてです。

 弟と一緒に演奏するようになったのは比較的早い時期からで、ごく自然に始まりました。5歳も離れているので、彼がチェロを弾けるようになるのを私が待ち、確か17歳の時に一緒にラヴェルの曲を弾いたのが初めてでした。“2人で何かやろう”といった具体的な計画があったわけではなく、目の前にお互いがいたので「やってみようか」と。そのうち、コンサートもするようになっていました。今年の初めにはアメリカでも2人で演奏し、嬉しいことに成功を収めることができました。

── ご兄弟で演奏するメリットや、他とは違う魅力は?

 弟と一緒だと、コンサートひとつひとつが冒険のようで、そのなかでの体験を楽しみながら、未知の世界へと踏み出していけます。ひとつの音楽の枠のなかで、より自由が生まれます。見た目も性格も全然違うので、双子のような兄弟というわけではありませんが、本能的に似た部分、伝わる部分があるからかもしれませんね。音楽的な考え方や一般的なものの考え方、基本的な考え方に共通したものを感じます。
 タイミングなどは、互いに何も言わなくても取りあえますから、一緒に楽器に向きあうときはすでに、ある程度問題が解決している状態です。全く知らない人とあわせるときには、心臓の鼓動や息を吸う加減を揃えるのに練習の半分を使ってしまうものですが、弟との場合には全く問題ない。彼のようなパートナーがいてたくさん演奏してこられたのは、とても幸運なことです。そういった意味では、すでに2人で1人の人間であるような感覚があります。

── 日本では、弦楽器のデュオをひと晩のコンサートで行うことは、まだあまりありません。

 確かに珍しい組みあわせですね。ラヴェル以前の作曲家は、ほとんどたくさん曲を書いてくれなかったですから。ただ、音楽的、技巧的、見た目においても、互いに補いあうという意味で、楽器の組みあわせとしてとても良いと思います。
 聴いていらっしゃる方たちにとっては、まず“響き”に心を打たれるのでは、と実感しています。ピツィカートや超絶技巧的な華やかな部分だけでなく、何かが語りかけてくるような特別な印象を受けるはずです。経験上、弦楽器のデュオは、他の室内楽の編成以上に手ごたえを感じます。また私たちの場合、舞台上で“見た目を補いあうような対称的な兄弟が、同じように補いあうような楽器を演奏する”という点で、お客さまにより強いインパクトを与えているように思います。

── 今回、全曲デュオ作品でプログラムしていただきました。

 まず、ラヴェルとコダーイの2曲を基本に置き、ほかの2曲を決めました。
 コダーイとシュルホフに関して言えば、民俗的なものの影響があります。コダーイの曲はバルトークと同じように、民俗的な音楽を散りばめた試みが随所にあります。また、シュルホフはチェコ人ですが、ドビュッシーの弟子でもありました。彼の曲を演奏していた当初、どこかラヴェルと共通したものを感じていました。音色の使い方など、フランス的なものが含まれているなと思っていたので、後で彼がドビュッシーの弟子だったと聞き、「なるほど」と納得しましたね。2000年のロッケンハウス音楽祭でD.ゲリンガスと初めてこの曲を演奏し、そのまま楽譜を持ち帰って弟に、「おみやげだから、すぐ弾けるようになって」と渡しました。今まで弾いた感触では、とても好評をもって受け入れられている曲です。
 クラインは、ほとんど知られていない作曲家です。彼は、第二次世界大戦中、若くして収容所で亡くなりました。実は、この曲は2楽章だけの未完成作品なんです。ですが、内面的な力強さには本当に胸を打たれます。おそらく作曲家自身が無意識の中にも、今ある全てを込めなくてはいけないという葛藤や、何か駆り立てられる思いをもっていたのではないかと感じます。たとえば、ラヴェルの曲だと曲線を描いて美しさで魅了していくような感じですが、この曲には聴いたら無関心ではいられない、心が鷲づかみにされるくらいの強烈な印象があります。

── 2005年1月のトッパンホールでのリサイタルが、日本でのリサイタル・デビューでしたね。11月は、お2人での舞台を楽しみにしています。

 トッパンホールは、聴衆との距離が非常に近く室内楽には理想的ですし、音響も素晴らしい。自分がソナタやトリオを弾くとして、どこで弾くのがいいかな、と考えたときに頭に浮かぶホールです。声をからさなくても、お客さまを自分の懐に抱え込めますからね。
 今回は弟と一緒に舞台に立ち、なにより弦楽器のデュオの素晴らしさを伝えたいと思っています。たまたま“兄弟でチェロとヴァイオリンを弾いているから、デュオでやります”というのではなく、本当に魅力たっぷりな組みあわせでの演奏を味わっていただきたいです。

〈話題の弦のデュオを聴く 1〉
ルノー・カプソン&ゴーティエ・カプソン
2006年11月1日(水) 19:00
ルノー・カプソン(ヴァイオリン) / ゴーティエ・カプソン(チェロ)
シュルホフ:ヴァイオリンとチェロのための二重奏曲
ラヴェル:ヴァイオリンとチェロのためのソナタ
ギデオン・クライン:ヴァイオリンとチェロのための二重奏曲
コダーイ:ヴァイオリンとチェロのための二重奏曲 Op.7
■一般 5,500円 / 学生 3,000円