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挑戦する音楽家の、原点回帰。―そして、さらなる探求の旅へ
インタビュー

瀬崎明日香 インタビュー

 Asuka Sezaki
 聞き手=トッパンホール
 〈エスポワール〉のお話をいただいたのは、フランスで5年間勉強と充電をしたあと、とにかくコンサートを開きたい一心で帰国したタイミングでした。パリ留学では、“音楽家として、常に自分に厳しくあること”を先生から学び、ヨーロッパでは“音楽が好き”という気持ちを演奏家が聴き手と共有することで、クラシック音楽が愛され続けているのだとも知りました。特にパリでは、演奏家にも聴衆にも、クラシックを単に伝統の枠に押し込めず、新しいものとして積極的に楽しむ空気があることを体感したので、そういったことを伝えていける演奏家になりたい、と強く願って日本に戻りました。

 〈エスポワール〉では、その思いを表現すべく3回のステージを組み立てました。
 第1回は「無伴奏」。演奏家として、改めて日本でスタートを切る自分へのけじめの意味を込め、フランスに縁の深いイザイの無伴奏全曲を課して、留学の成果をお見せしたいと考えました。この大切な演奏会を前に運良く古い楽器(※)をお借りでき、300年を生きてきた楽器との対話からも、多くを学びました。ひとりで弾く孤独と対峙し自分を発見していく作業のなかでは、ヨーロッパの歴史や文化の奥行きを、さらに感じることができました。
 第2回は「ソナタ」。アンサンブルの奥深さを改めて専門的に学んだ成果を、最もシンプルな室内楽の形でお聴かせしたいと考えました。作曲家の考えが詰まった充実した作品を取り上げて、楽譜の裏に隠されたさまざまな可能性を探ろうという視点で選曲しましたが、共演がフランス人ピアニストのシュトロッセさんだったこともあり、“フランスで学んだ経験”をこれからも背負っていくのだと、改めて実感した公演でした。あえてフランス作品に絞ったことで、ひとつのものを集中して掘り下げる作業ができ、大きな経験になりました。

 そして最終回、締めくくりに残していたのが、私の、ヴァイオリニストとしての原点である「小品」です。「小品」には、年代も国も越えて無条件に人が元気になるような楽しさや、言葉では表現できない哀しみなど、喜怒哀楽を凝縮させた魅力があります。ヴァイオリン音楽のなかでも特別な存在だと思います。今回は、小品=ソナタ以外と考え、ヴィルトゥオーゾ的なものも含めて緩急をつけたプログラムにしました。
 ストラヴィンスキーは、フランスで認められたことで人生が開けた作曲家。同じ年頃にフランスにいた点に共感します。“ディヴェルティメント”はバレエの要素がたくさん入った作品で、幼い頃、踊りながら弾いていたことを思い出します。サン=サーンスの2曲のうち、“ハバネラ”は留学中、パスキエ先生が教会でお弾きになったのを聴いて、“こういうフランスの香りがあったのか!”と衝撃を受けた曲です。スメタナは東欧らしい情と歌のある作風で、日本人の心を捉える作曲家。ヴァイオリン作品は取り上げられる機会が少ないので、ぜひ聴いていただこうと入れました。最後のヴィエニャフスキは、最終回のなかで最初に決めた曲です。フランス人作曲家・グノーのオペラから題材をとった作品で、留学中に大きな影響を受けたオペラ文化との関連もあって選びました。ヴァイオリニストの大先輩でもあるヴィエニャフスキの難曲に挑戦して、シリーズを締めくくります。

 「小品」は長さが短い分“聞かせる”のが難しく、勢いに加えて聴き手との緩急の間を感じることも重要。実は弾くのは冒険なのですが、最終回、お客さまに幸せな気持ちで家路に着いていただきたい思いもあり、挑戦を決めました。音楽が好き、という気持ちを伝えるのにとても向いているので、ずっと大事にしたいと思っています。

 〈エスポワール〉では、留学直後ということもあってフランスからスタートしましたが、日本人だからこそ旧来の視点にとらわれず、広く世界を見渡す立ち位置を持つことができると考えています。これからも人間としての成長を止めることなく、このシリーズでの自分を忘れずに、挑戦する音楽家として探求を続けていきたいと思います。

※1697年製ストラディヴァリウス「レインヴィル」のこと。2005年12月より2年間、フォーバル社より無償貸与されている。
〈エスポワールシリーズ 5〉
瀬楓セ日香 Vol3 ―小品集
2007年12月22日(土) 16:00
瀬楓セ日香(ヴァイオリン) / エマニュエル・シュトロッセ(ピアノ)
ストラヴィンスキー:ディヴェルティメント
サン=サーンス:ハバネラ Op.83
サン=サーンス:序奏とロンド・カプリチオーソ Op.28
スメタナ:我が故郷より
ヴィエニャフスキ:「ファウスト」による華麗なる幻想曲 Op.20
■一般 4,500円 / 学生 2,500円