トップページ > アーカイヴ > インタビュー > Vol52. 日下紗矢子 インタビュー

アーティストボイス

3年の充実を映す、シリーズ最終回 渾身の六重奏
インタビュー

日下紗矢子 インタビュー

 Sayako Kusaka
 聞き手=トッパンホール
 撮影=藤本史昭
日下紗矢子
トッパンホールが、将来世界の音楽シーンをリードする存在として才能を認めたアーティストとともに、3回のステージをつくりだすシリーズ〈エスポワール〉。その9代目として今、輝きを放っているのがヴァイオリニスト・日下紗矢子だ。2010年のVol.1では名匠ブルーノ・カニーノとのデュオ、2011年のVol.2ではペーター・ブルンズとメルヴィン・タンという実力者と丁々発止に渡り合い、トリオの醍醐味を聴かせた。徹頭徹尾、彼女のこだわりに貫かれたプログラムは毎回聴き手に大きな手ごたえと充実をもたらし、日下紗矢子という音楽家が秘める底知れぬ可能性を感じさせて止まない。
エスポワールのお話をいただいたのは20代の後半でした。ちょうど音楽家としての将来像にいろいろ思いめぐらせはじめた時期で、シリーズの進行が30歳の前後に重なったことは大きいと思っています。スタートのときには、3年後には自分がどうなっているのか想像がつきませんでしたが、世の中の出来事を振り返っても…昨年は大震災が起きましたし、自分自身にも本当にたくさんの事があった3年間でした。

── そうしたなか、音楽の道をひた走ってきたのだろうか?

音楽家として生きるなか、演奏することやヴァイオリンに対して、多少なり迷う場面がなかったわけではありません。でも、必ず音楽に引き戻されました。ベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団の第一コンサートマスターになってからは4年、オケだけでなく室内楽やソロにも取り組んでいますが、一緒に演奏する仲間、それを支えてくださる方たち、今いる環境や置かれている状況には感謝の気持ちでいっぱいです。

── その歩みにエスポワールは重なっている。

シリーズがはじまった時と最終回を前にした今とでは、音楽への気持ち、感謝の想い、それぞれ比べものにならないくらい強いと思います。日本以外の場所で、またオーケストラで演奏するようになったことで多くの出会いと経験をして、自分のなかによい意味での“変化”がたくさんありました。それらすべてが、音楽を創るうえでとても意味のあることだと、今、実感しています。その充実した時間のなか、同じホールで3回弾かせていただけるのは本当に幸せ。自分の変化がよくわかります。

── シリーズ最終回のテーマは、六重奏。シェーンベルクの《浄められた夜》をぜひ弾きたかった。

初期の傑作ですよね。なかなか演奏会にかけられなくて、もったいない。非常に緊密なアンサンブルが要求されるのが、やり甲斐もある。楽しみです。

── 六重奏ではもう1曲、シリーズ3回を貫くテーマであるシュルホフの作品も取り上げる。

一人の作曲家の作品を、毎回プログラムに入れたくて選んだのがシュルホフです。ドイツで知ったのですが、ジャズの要素もあったり不思議な魅力にあふれているのに、日本ではほとんど演奏されない、知られていない。ぜひ紹介したいと思いました。

── 今回の共演者はそれぞれ、日下が信頼を置く旧知の仲間だ。

鈴木さんと甲斐さんは、私と同じくドイツで過ごした時期がある、いわば同じ空気を吸って学んだ同志。お互いいろいろな経験を重ねての今回の共演は、心から楽しみです。チェロのステファンとダミエンとは、ベルリンでよく一緒に弾いています。ヴィオラのアンドレアスはオケ仲間で、ダミエンとクァルテットをやっていたこともある人。私を含めた4人はいわばお互いを熟知した仲ですが、柔軟な技巧派の甲斐さんと室内楽経験豊富な鈴木さんがそこに絡んで、きっと素晴らしいアンサンブルが生まれるはず。この同世代のメンバーと一緒に演奏できるのは実に幸せなことで、どんな音楽を創りあげられるか、今からワクワクしています。実は、直前に同じプログラムをベルリンで演奏する機会ができたんです(※)。7月の公演へ向け、いっそうじっくり作品と向き合えそうです。

── 若くしなやかな日下の感性が光る、お決まりではないプログラムと、気心知れた共演者。最終回は“伝説の公演”になるかも知れない。最後に、トッパンホールについて。

トッパンホールには、独特のあたたかい雰囲気がありますね。木の色、視界がひらける感覚、そして真剣に聴いてくださるお客さまと、全てが調和した空間だと感じます。以前はどちらかというと自分の世界に入りたいほうでしたが、今はむしろ、扉を開いてみることこそコンサートの醍醐味だと感じるようになりました。客席が近くて、演奏家とお客さまが互いに呼吸を感じ合えるトッパンホールのステージは、演奏していてとても楽しい。7月、みなさまにお会いできるのを心待ちに、このシリーズでの貴重な経験を糧に、今後もさらに高いところを目指していきたいと思います。

※甲斐・鈴木を除くメンバー
(2012年2月1日/トッパンホールにて)
〈エスポワール シリーズ 8〉
日下紗矢子(ヴァイオリン) Vol.3─六重奏
2012年7月1日(日) 15:00
日下紗矢子(ヴァイオリン) / 甲斐摩耶(ヴァイオリン) / アンドレアス・ヴィルヴォール(ヴィオラ) /
鈴木康浩(ヴィオラ) / ステファン・ギグルベルガー(チェロ) / ダミエン・フォンテュラ(チェロ)
シュルホフ:弦楽六重奏曲
ベートーヴェン:弦楽三重奏曲 ハ短調 Op.9-3
シェーンベルク:弦楽六重奏曲 《浄められた夜》 Op.4
■一般 5,000円 / 学生 2,500円