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アーティストボイス

福間洸太朗
神秘的な「水の光」に聴く 心癒す温和な感動
インタビュー

福間洸太朗 インタビュー

 Kotaro Fukuma
 聞き手=トッパンホール
 撮影=藤本史昭
福間の魅力は、そのすぐれたテクニックだけでなく、作品に対する真摯なまなざし、そして同世代の音楽家のなかでも群を抜いた独創的なプログラミング能力。30歳を迎える今年、以前からあたためていたという渾身のプログラムを届けてくれる。コンセプトは「水の光─Shimmering Water」。
 自分の名前の一文字でもある「洸」。海外公演で色々な国の方と話をする時に、名前の漢字の意味について聞かれたことがありました。洸太朗の「洸」の字は「水」と「光」という部分があるので、自分自身では「水の光」というイメージがあると説明したところ、「あなたの演奏を聴いて、そういった印象を受けました」と言われました。それも1回だけのことではなく、アメリカや、南アフリカ共和国、フランスと色々な場所で、しかも「水」に関する曲を弾いたわけではないにも関わらず、私の演奏から皆さんがそういったイメージを抱いてくださったことに、何か運命的なものを感じます。

 実は中学生の時にも、演奏会の後、音楽の先生に「とうとうと流れる水の動きときらめく光を感じました」という言葉をいただきました。ただ、当時はそれを特別に意識することはなく、このコンセプトでプログラムを組みたいと漠然と考え始めた時も、他にやってみたいことがまだまだたくさんありましたし、大切なテーマだからこそ、時間をかけて構想を練りたかった。ここ5、6年でしょうか、このテーマについての意識がどんどん高まって、30歳という節目の年でもある今年、いよいよ挑戦することにしました。

 ひとつのコンセプトに沿ったプログラミングを意識するようになったのは、フランス留学時代です。特にパリでの演奏会が多かったのですが、ピアニストに限らず個性の強いアーティストたちが、何らかのコンセプト、テーマをもって構成したプログラムにはいつも意表をつかれると同時に、全体を通して聴くと深く納得させられたり、その作品の新しい見方を知って感動を覚えたり。自然と自分でもそのような演奏会をやってみたいと思うようになりました。その後サロンコンサートなどでテーマを決めて演奏する機会も増えたのですが、最初のうちは誰でも予想がつくだろうなという作品を並べたプログラム、そして徐々にテーマとはかけ離れた印象がある作品を入れて実験的なことにも取り組むようになっていきました。トーク付のコンサートなどでその時のテーマについて触れると、お客さまがとても喜んでくださる。コンサートも一層盛り上がり、演奏していても充実感やしっかりとした手応えを感じることができたんです。さらには「こんなこともやってみたら?」というリクエストをいただくことで刺激を受け、自分のなかのアイディアもどんどん広がっていきました。

 今回のプログラムは「水の光」を感じつつ、前半は水に関する作品で歌が中心になっているようなもの、「水に寄せて歌う」というイメージで、〈ラインの歌〉や〈舟歌〉などを選びました。そんななかにあって、ベートーヴェンの《田園》は水を象徴する曲ではないかもしれませんが、自分の解釈としては、曲の冒頭から水がとうとうと穏やかに流れるなかに「水のきらめき」のようなものを強く感じ取ることができる。4楽章構成ですが、最後の方にある牧歌的な伴奏は〈舟歌〉にも通じているように感じます。

福間洸太朗  プログラム後半に向かっては、より幻想的な世界を描きたいと考えて、ドビュッシー作品を中心に構成しています。フランス印象派は大好きで、特に中学・高校の時はたくさん弾いていましたし、ドビュッシーは自分にとって特別な作曲家のひとり。昔からことあるごとに新しい作品を勉強していました。最後に演奏する〈喜びの島〉など、ドビュッシーの代表作と言われるような作品の中からテーマに沿って、さらには自分の色が出せるような曲を選びました。特に〈水の反映〉は演奏する機会が多いだけではなく、初めての海外での演奏会、初めての国際コンクールなど、人生の要所要所で弾いてきた大切な曲で、この秋にリリース(9月19日予定)するCDのタイトルにもしたほど。いろいろなことをイメージさせてくれるこの作品を置くことによって、さらにプログラム全体の奥行きや可能性が広がるのではと思っています。

 今回初めて弾く2作品についても触れると、〈アクアパウラの泉〉は「水」に関係する作品を探しているなかで、ごく最近知った曲です。グリフェスはアメリカの作曲家ですが、ドビュッシーと同時代を生きた人で、自然や幻想的な世界を描いた小品をたくさん残しています。この曲も本当に美しい作品で、是非皆さんに聴いていただきたいと思って選びました。フィンランドでは有名な、知る人ぞ知る作曲家カスキ。実は小さい頃から〈泉のほとりの妖精〉の楽譜を持っていて遊びながら弾いていたのですが、演奏会で取り上げるのは今回が初めてです。北欧の水に関する作品も多いカスキですが、この曲でも冷たい「水」を感じる。ドビュッシーの音楽などともまた違う色があって面白いですね。

 最後にクラッツォウについても一言だけ。彼は南アフリカの作曲家で、ケープタウンの大学で作曲を教えています。2008年2月の南アフリカツアーで、その大学のコンサートシリーズに呼んでいただいたのが出会いのきっかけです(武満徹作品を中心に関連のある作曲家の作品を取り上げたレクチャーコンサート)。その時に彼の作品を知ったのですが、南アフリカの大自然や、ケープタウンの海の美しさを描いた作品など、とても弾きやすくて素晴らしかった。それを本人に伝えた時、将来的にこういったプロジェクトをしたいと思っているので作品を書いていただけたら嬉しいと話したところ、昨年ついにそれが実現しました。今回が世界初演となりますので、楽しみにしていただければと思います。

 2009年のランチタイムコンサート以来ですが、久しぶりにこの素晴らしい響きの空間で、そして何よりもトッパンホールのお客さまに聴いていただくことを楽しみにしています。私にとって「水の光」は「希望」や「平和」を象徴するものであり、心を癒し温和な感動を与えてくれるもの。これは人種・国を問わず、多くの人の心に通じる感覚だと確信しています。皆さまにも私の演奏を聴きながら、いろいろな風景を想像したり、水の光が放つ神秘的なもの、温和な感動を感じ取っていただけたら嬉しいです。
(2012年3月 トッパンホールにて)
福間洸太朗(ピアノ) ─水の光 Shimmering Water
2012年10月13日(土) 15:00
ビゼー:《ラインの歌》より 〈暁〉 〈出発〉
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第15番 ニ長調 Op.28 《田園》
シューベルト=リスト:水に寄せて歌う
ショパン:舟歌 嬰ヘ長調 Op.60
グリフェス:アクアパウラの泉
リスト:《巡礼の年 第1年 スイス》より 〈泉のほとりで〉
カスキ:泉のほとりの妖精 Op.19-2
ドビュッシー:《前奏曲集 第2巻》より 〈水の精〉
ピーター・クラッツォウ:Night Sky, Distant Waters ──世界初演
ドビュッシー:《映像 第1集》より 〈水の反映〉/《映像 第2集》より 〈金色の魚〉
ドビュッシー:喜びの島
■一般 4,000円 / 学生 2,000円