トップページ > アーカイヴ > インタビュー > Vol72. 原ハーゼルシュタイナー麻理子 インタビュー

アーティストボイス

原ハーゼルシュタイナー麻理子
大好きな音楽を、刺激ある仲間とともに――
トッパンホールプレスVol.99より

原ハーゼルシュタイナー麻理子 インタビュー

 Mariko Hara Haselsteiner
 取材・文=トッパンホール
 写真=藤本史昭

── おかえりなさい、という感じです。

ただいま(笑)。

── 今回は2016年5月の〈開館15周年 室内楽フェスティバル〉以来ですが、初出演以降、毎年のように出ていただいてきました。

2014年8月、島田彩乃さんの〈ランチタイムコンサート〉にシューマンのピアノ五重奏で呼んでいただいたのが初めてでしたね。あれからまだ4年ですか。

── ちょうど、人生を大きく踏み出された頃でしたね。

あの年の秋は、留学先のドイツでオーディションに受かって、3か月で17公演というリサイタル・ツアーがありました。その合間、10月に10日間だけ日本に戻ったときに、〈ランチタイムコンサート〉の自分の回で、やはりシューマンを弾かせていただいて。演奏でバリバリ飛び回っていた時期で、演奏家生活をすごく満喫していました。あのツアーのおかげでビザがおりて、ヨーロッパでも演奏活動ができるようになった。その後ウィーンで結婚して子どもが生まれて…振り返ると激動の4年でしたね。

── その間にも、2015年(トリオ・マリーナ)、2016年(ピアノ五重奏)と続けて〈ニューイヤーコンサート〉に出演し、その後〈室内楽フェスティバル〉、2017年にはトッパンホールが毎年企画協力している「キラリ☆ふじみ(埼玉県富士見市民文化会館)」のニューイヤーコンサートにも出ていただきました。

短いのに濃密ですね。同じ目線のようで失礼かも知れませんが、プログラミング・ディレクターの西巻さんとは感覚の合うものがあって、それでたくさんチャンスをいただけていると思っています。

── プログラムは《ゴルトベルク変奏曲》が最初に決まりました。

上野さんとの演奏会ということがまずあって、ふたりで「何を」「誰と」やりたいか話をしました。ミニマムな編成を考えると弦楽トリオ。そしたらちょうどその時に、ダニエル・ゼペックがリハーサルをしていたんです。トッパンホールで打ち合わせていたのですが、彼のコンサートの前で。それで思い切ってその場でオファーしたら、ふたつ返事で引き受けてくれました。本当に嬉しかった。プログラムはそこで全部決まりました。アレンスキーをやりたいと言ったのは私です。

── ゴルトベルクも原さんのご提案ですよね。

とても好きな曲です。12年前かな、ジュネーヴに留学する直前、今井信子先生のお宅にしばらくお世話になっていたのが、先生がちょうどこの曲をレコーディングされたあとで。家でチェックされているのを間近に聴いていて、すっかり魅せられました。目が覚めてはすぐ聴き、食事の時間や練習の休憩中にも聴いていた。自分でも5年ほど前にヨーロッパで一度弾いたのですが、自分との戦いのような、精神的な世界。繰り返しを全部入れると80分あまり、体力的にもきついし、ヴィオラはヴァイオリンとチェロの架け橋の役割もあって、集中が途切れません。でも、一本のラインを全員で繋いでいく面白さがある。繰り返しをどう変化させるかも腕の見せどころで、スリリング。その意味でも、私は譜面どおり全部繰り返さないと曲のよさがでないと考えますが、ふたりの意見もありますし、本番どうするか、そこも楽しみにしていただければと思います。

アレンスキーは、映画音楽を想起させるドラマティックな曲。2本のチェロによる音の厚み、響きが豊かな作品です。彼らに支えられて、この曲のヴィオラはヴィルトゥオーゾ的なところが多く、弾きがいがあります。ロシア正教の賛美歌のような旋律も出てきて、なんとも美しいのですが、残念ながら弾かれないし聴かれない。以前、イギリスでのライヴがラジオで流れたら、それを聴いた方がいつお会いしても「あの演奏会が忘れられない」とおっしゃって。滅多にない機会の今回、ぜひ多く方に聴いていただきたいです。

── ゼペックとは、彼がコンサートマスターを務めるドイツ・カンマーフィルハーモニーでご一緒されてますね。

はい、客演メンバーとして3年間在籍したときに。旅するオケなので、ツアーや食事を一緒にしながら、あたたかく素朴な人柄に触れられて貴重な時間でした。物腰が柔らかくて、コンマスなのに「こういう風にやってみない?」と訊ねかける感じの人。自分の意見を押し付けず、真のリーダーとはこういうことか、と思いました。彼の音楽はそんな人柄そのもので、飾らず真摯でエネルギーに満ちています。表面的に弾く人も少なくないなか、ゼペックの音楽はまったくの正反対。大好きです。以前アルカント・カルテットの演奏会を聴いたときには、オケで大勢を見渡しているときと違い、ぐっと集中して密度が濃くなり、音楽をより発散していたのが印象的でした。前へ出るのも後ろへまわるのも自然で自由自在、ヴァイオリニストには、ほとんどいないタイプじゃないかな。武士みたいに一直線なところと女性的な柔らかさを併せ持っていて、そのバランスが独特で。本当に素敵な方です。

── オリヴィエ・マロンは、トッパンホールにはアルカントQとの共演で2014年に出演しています。

ジャン=ギアン・ケラスのお弟子さんという期待もあって、初共演がとても楽しみです。アレンスキーでは2ndを弾いてもらうのですが、実はこの曲、上野さんが弾く1stより2ndのほうが大変なんですよ。

── 上野さんはどういう印象がありますか?

トッパンホールでも何回か共演していますが、年下なのに落ち着きがあって、初めて会ったときから、得も言われぬオーラのような貫禄があって…面白い人だなと。無口なのに、彼の意見には考えさせられるところがある。インプットしてくれる存在です。留学していろいろパレットが増え、表現も自由になっていると思うので、久しぶりの共演が楽しみです。それに、若い演奏家と弾くとそのエネルギーに圧倒されます。最近筋トレを始めたので、負けないように(笑)しっかり体力づくりして、本番に臨まなくちゃ。

── 原さんもまだ充分お若いです…。

でもいまは子供が生まれ、家族との時間を大切にしている分、学生や独身のときのような時間の使い方はもうできません。だからコンサートは数ではなく、クォリティ重視。限られた時間のなかでもしっかり準備して、納得できるコンサートをしていきたいと考えています。すごく贅沢な話ですが、仕事のために音楽はしたくありません。

── 本当に音楽がお好きなんですね。

私が楽器を始めたのは、祖母がくれたクリスマスプレゼントのヴァイオリンがきっかけでした。叔母がヴァイオリン教師だったので、なんとなくはじめて、子供時代は音楽一筋ということでもなかったんです。でも習い続けるうちに音楽学校へ行き、ヴィオラに出会って留学するころには「私にとって音楽って…?」と、ずっと自問自答していました。結局、つらくても、やめたくなっても、音楽が大好きだったんですね。特に室内楽を弾いているとそれを強く感じます。もともと「これが私!」というのはあまり好きじゃない。室内楽でヴィオラを弾いているのが、心地いいんです。共演者の音楽に心を配ったり、耳を澄ませていると、みんなのやっていることが刺激になる。そういうなかで、自分の感性や音楽を育んでいきたいと思っています。

今回の演奏会は、自分にとっては一番面白いプログラムになりました。ヴィオラとチェロにヴァイオリンを加えたことで、弦楽器それぞれの際立った魅力がお伝えできると思います。私自身は、出るところ、陰になるところ、色を出すところ、そういうことを意識しながら、室内楽を存分に楽しみたい。今の私の精一杯で心を込めた演奏をお届けしますので、一緒に楽しんでいただけたらこの上ない幸せです。

原ハーゼルシュタイナー麻理子(ヴィオラ)&上野通明(チェロ)×
ダニエル・ゼペック(ヴァイオリン)&オリヴィエ・マロン(チェロ)

2019年2月9日(土) 15:00
J.S.バッハ(D.シトコヴェツキ編):ゴルトベルク変奏曲 BWV988[ゼペック、原、上野]
シュルホフ:ヴァイオリンとチェロのための二重奏曲[ゼペック、マロン]
アレンスキー:弦楽四重奏曲第2番 イ短調 Op.35(ヴァイオリン、ヴィオラと2本のチェロのための)
5,000円 / 学生 2,500円 全席指定