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アーティストボイス

ダニエル・ホープ
日本歌曲のルーツをめぐる旅

嘉目真木子

 Makiko Yoshime
 取材・文=トッパンホール
 写真=藤本史昭
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一年半くらい前に〈エスポワール シリーズ〉のお話をいただきました。オペラを中心にたくさんのよい機会に恵まれて感謝する一方、個人的に挑戦してみたいことは、どうしても後まわしになっていたので、このシリーズに選ばれたことは本当に嬉しかったです。入念な準備が要求されるハードルの高いコンサートを3回、3年にもわたってさせていただけるなんて、こんな光栄なことはありません。

考え抜いた末、第1回には歌う機会の少ない日本歌曲を選びました。普段、外国語のオペラが多いなか、オール日本歌曲は初挑戦です。母国語で歌うことはごく簡単に思えるかもしれませんが、母国語だからこそ言葉のイメージが強くあり、それが表現の幅を狭めるのではないかなど、思い煩う面も少なくありません。日本での演奏会はお客さまも日本の方で、それぞれ言葉のイメージをお持ちですし、ある種の恐怖というか、挑戦しにくいと感じるところもあります。

でも一方で、日本の歌曲やオペラには、日本人にしか感じられない気配やそれを醸しだす日本語の力があり、それは大きな魅力です。言葉にあえてメロディーを付して表現することで、より共感しやすくなる。外国語の曲に比べ、詩の行間を読むことがすごく重要というところが、日本歌曲の根底にはある気がします。4月の公演へ向け取り組みはじめてみて、日本人として、日本歌曲・日本語の世界は避けては通れないと、改めて強く思いました。

プログラムは、私自身が時代の変遷を体感したい思いもあって、西洋音楽受容の初期から現代まで年代順に並べました。瀧廉太郎から、私の大好きな木下牧子さんまで、約100年の日本歌曲の歴史をめぐります。瀧廉太郎は私の故郷・大分県ゆかりの人で、ジュニアコーラス時代によく歌って親しんできました。今回入れた曲は、そのころ歌っていた童謡とは趣が異なりますけれど、とても親しみやすく、日本で本格的な混声合唱や歌曲が生まれた頃の感覚がよく分かる作品になっています。彼の曲はすごく単純で、思わず笑いがこぼれるようなものもあるのですが、でもそういうところから今の日本の音楽がはじまったと感じられる、とても愛おしい作品たちです。

嘉目真木子 木下牧子さんの作品との出会いは、高校生の時。合唱部の音楽コンクールの課題曲になっていて、その独特な世界観にすっかりハマってしまいました。はじめは何だか不思議な感じがするのですが、歌っていくにつれて抜け出せなくなるというか、すごく引き寄せられて。あとはもう、歌わずにはいられなくなるような、ユニークな魅力があります。パート練習ではとても変わった音程に感じていたのが、全体で合わせるとすごく楽しくて、みんなでイキイキ歌った思い出があります。木下さんは合唱曲を多く手がける一方、そこから編曲されたものも含め、ソロの歌曲作品もたくさん書いていらっしゃいます。素敵な作品が多いなか、今回は《おんがく》を最後に演奏することにこだわりました。演奏家にとってとても共感できる詩で、この曲で締めくくることで、自分が昇華できるような気がして。音楽の神様に捧げたい…というような気持ちです。

この二人の作曲家を軸に、いろいろな楽譜を集めたり、資料を読んだり聴いたりして、詩や曲調など、心に響いた曲を選び抜きました。共演の北村朋幹さんには、全部暗いって言われてしまいましたが(笑)、歌う本人の感情が揺れ動いてこそ、そこから派生する情景への表現を描けると思います。でも情景を描く作品は、いちばん難しい。「月」といっても人によって思い浮かべる月の様子は違いますものね。歌曲の可能性って本当に限りがなくて、表現に終わりがないと感じます。作曲家と作詩者が異なることがほとんどで、作詩者がイメージしていた世界観と、曲がついた世界観が一致していない場合はどうするのか、さらに演奏者の解釈が違っていた場合は、もともと詩が持っていた世界観がまったく違うものになるのではないかなど、何を基準にしたらよいのか、決着点がないところが歌曲の難しいところです。でも、だからこそ面白い。今回は北村さんとともに、じっくりつくり上げた世界観を信じて演奏しようと思っています。

北村さんとは初共演ですが、言葉に対する感性が鋭く、詩や音楽的なことをものすごく掘り下げて準備してきてくださっています。今日初めてリハーサルしたのですが、二人の持っているイメージをすり合わせ、融合させていく作業はとても楽しい。演奏しているよりディスカッションの時間の方が長いくらい、濃密なリハです。今回は初めて取り組む曲を多く入れているのですが、作曲家の意図など、一人で考えていると分からないことも北村さんがヒントをくれる。北村さんとだから、このプログラムが成立したと感じています。

日本歌曲は、日本人として絶対に向き合うべきものだと、今、思いを新たにしています。お客さまにとっては遠いものかもしれませんし、考え抜いてプログラミングした結果、正直、知られていない曲も多いのですが、日本語の美しさ、詩の世界を心から楽しんでいただけるような演奏ができたらと思っています。日本人であることの喜びを、この音楽に感じていただけたら嬉しいです。
〈エスポワール シリーズ 12〉
嘉目真木子(ソプラノ) Vol.1―日本歌曲
2019年4月13日(土) 17:00
嘉目真木子(ソプラノ) / 北村朋幹(ピアノ)
瀧 廉太郎:組歌《四季》より〈花〉〈納涼〉〈秋の月〉〈雪〉
山田耕筰:嘆き
藤井清水:うら畠
信時 潔:短歌連曲/茉莉花
田三郎:《ひとりの対話》より〈くちなし〉
中田喜直:母私抄
三善 晃:《抒情小曲集》より〈少女よ〉〈五月〉
猪本 隆:《四つの愛の詩》より〈ここに見つめ合う目と目があり〉〈二月〉
木下牧子:《抒情小曲集》より〈夕顔〉/《悲しみの枝に咲く夢》より〈夜の薔薇〉/おんがく
4,500円 / 学生 2,000円 全席指定