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春: 2014年2月アーカイブ

原体験

2014年2月24日 月曜日 春 | | ホールよもやま話

小さな出会いが、人生に大きな影響を与えることがある。

私は、なぜクラシック音楽を好きになったのか。音楽一家で幼い時から、家のなかで常にクラシック音楽が流れている環境にいた、とか、ピアノが上手に弾けて音楽大学をめざした、とか。

そのどちらでもない。

何がきっかけだったのか、向き合って考えたこともなかったが、先週、鮮やかにその「出会い」を思い出させてくれた出来事があった。

 

中学一年生の時の音楽の先生―非常勤で音楽専門の若くて美しい先生だった。ご自身は、「ソプラノ歌手」を本業とされていたようで、毎週、遠くの街からその授業のために来てくれた。午後一番の授業だったので、音楽の日は、早めにお弁当を済ませ、音楽室へ行くのが楽しみだった。その先生は授業の前、ウォーミングアップを兼ねてか、ピアノを弾きながら美しい声でいろいろな歌を歌ってくれた。プロの技を目の前にして、うっとりしていた記憶がある。

ある日、授業でシューベルトの「魔王」を聴かせてくれた。まず、録音(当時はレコード!)で、歌手の名はもう思い出すこともできないが、いわゆる名手のものを何人か、聴き比べをさせてくれた。ドイツ語の対訳を見ながらだったが、ストーリーに引きよせられ、何回聴いてもドキドキした。そのうち、魔王にとりつかれたのかのように、その世界に感情移入してしまう。そして最後に、先生が、皆の前で日本語訳の「魔王」をソプラノで歌ってくれた。「おとうさん! おとうさん!」と坊やが泣き叫ぶくだりで、身震いるすほど感動し、興奮したのを覚えている。

録音では、歌手(とその伴奏ピアノ)の技量が作品を左右することを知った。先生が歌うライヴには、録音とはちがう魔力があることを、身をもって体験した。そして音楽には、ここまで深く、怖いとか、悲しいとか、やるせないとか、感情を揺り動かす力があることを知り、心から感動した。

それ以来、クラシック音楽の魅力に取りつかれた、のだ。

 

先週の主催公演で、クリストフ・プレガルディエンが「魔王」を歌ってくれた。あの時と同じく、恐ろしく心を動かされ、この原体験がよみがえってきた。おかげで、いろいろなことが思い出され、解決し、すっきり。思いがけない、そして嬉しい出来事だった。ありがとう、プレガルディエン。

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