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インタビューInterview

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バロックから、今へ。サックスの豊かな表現力と可能性でソナタの新たな顔をひきだします。  

平野公崇 Masataka Hirano

聞き手=
トッパンホール

クラシック、コンテンポラリー、ジャズ、即興とジャンルにとらわれない自由な音楽で、サックスの新たな地平を拓きつづける、平野公崇。 緻密で繊細な音楽と超絶技巧、常に新しいチャレンジで聴き手を魅了しつづけています。 そんな彼が今回用意してくれたのは、時代の異なるソナタづくしの渾身のプログラム。さまざまなこだわり、そこに込められた意図と想いを、ご自身に語っていただきました。


はじめに、ホールの印象をお話しいただけますか?

 ありきたりですが、響きが綺麗なホールだと思いました。響きがドライすぎる場合、細かい表情がよく聞きとれる反面、場合によって聞き手の心地よさが崩されることもあります。逆に響きが良すぎると、演奏者にとっては拘った演奏をしても伝わりにくく面白みがないことがあります。その点トッパンホールはサイズも響きもちょうどよく、とてもいいホールだと思いました。

今回のプログラムを選曲された経緯を伺えますか?

 大きくは3つの意味を考えました。何よりも、このホールの特性を活かせること。次に、僕ならではの内容になること。そして、サックスという楽器を知ってもらうことです。ソナタという共通の形式をもつ、バロック、ロマン、近現代、即興(今)とスタイルの違う曲を時代順にならべています。色々な種類のサックスによって果てしない可能性を聴いて頂けたらと思っています。

平野さんにとって、サックスの魅力とは?

 サックスは非常に豊かな表現力と可能性を持った楽器です。また、とても自由なポジションに置かれている楽器だと思います。他の楽器に比べて約150年と歴史が短い分、それを演奏する人間がどういう意識で演奏するかが大切です。よく楽器を吹く瞬間に、歴史を継承していこうというスタイルか、未来に向かって限りなく作ろうというスタイルのどちらをとるかで、演奏は違ってきてしまいがちなんですが、本来は一緒であるべきだと思っています。歴史というのは、常に守って行こうとする人間と、それを更に開拓しようとする人間がいてこそ出来上がっていくからです。また、単に前の人がやったことを引き継いでいくだけではそこでとまってしいますし、文化は進んでこそ文化として成立するわけです。サックス奏者として、フランスの伝統的なスタイルを継承しつつも、物事の進む速さとともに、自分もその流れに乗って前進していかなければいけないと感じています。

いろいろな作品をアレンジされていますよね? 今回も、前半の2曲は弦楽器作品をアレンジしています。

 前半の2曲は、もともと弦楽器作品で素晴らしい名曲ですが、今まで、特に日本ではあまり知られていないものばかりです。 曲を選ぶときは、まず作品の中に自分のやりたいことがあるかどうかを考えます。インスピレーションにひっかかってこない作品は、やはり難しいですね。アレンジする時は、その作品が何の楽器の為に書かれたかということより、作曲家の心の中に浮かんだ音楽、つまり楽器の存在を超えた、作品の本質を伝えたいと思っています。例えば、今回演奏するヒンデミットのソナタはロマンティックな部分と20世紀初めの混沌とした時代が持つ強烈なエネルギーを秘めています。
 原曲のヴィオラでは音量的に限界な部分も、サックスの演奏によってより立体的な表情が浮かび上がります。楽器の違いを乗り越えるのは決して簡単なことではありませんが、反面、常に新しい可能性と出会えるチャンスも秘めています。そんな時の喜びが忘れられずにチャレンジをやめられないのかも知れません。誰もやらなければ一生発見されないまま終わってしまうわけですから。

バッハの作品は以前からよくやられていますが?

 これまでバッハの作品をいろいろやってきたのは、僕の中で、自然に入っていけるフィーリングを感じているからです。その理由の一つは、高校時代、バッハの作品が好きで、バッハばかり聞いている時期があったためかもしれません。それはジャズミュージシャンが、スウィングやグルーブの感じを聴き込んで体に染み付かせるのに似ていて、好きで聴き込んでしまううちに、なんだかとても自然で懐かしい音楽になっていってしまったんですね。

即興演奏をされているのも、同じように自然なことですか?

 子供の頃から即興演奏に憧れていました。パリ音楽院で即興演奏科に入ったのも、ずっとやりたかったからです。それに、今回共演するピアニストの山田武彦さんとの出会いも引き金にもなりました。パリに留学している時に知り合って、山田さんの話をいろいろ聞いている頃、ちょうど音楽院の中に即興のクラスが出来たんです。悩まず試験を受けました(笑)。クラスにいた頃は、毎日が面白かったです。授業の半分くらいがマスタークラスで、ダンサーとかパントマイマーとか、いろいろなジャンルのゲストが来ていました。これが自分にとって関係ないようで関係あるものなんです。ゲストとしてマスタークラスに来る人達は、とても大きな人間性をもった人達ばかりでしたから、話を聞くだけで実になったことが多かったです。
 サックス科にいた3年間は、技術を完成させるために、また伝承され続けるフランス音楽を追求していく時期でしたが、即興演奏科では築いてきたものをまっさらにし、どこまで既存の形から離れていけるかが問われました。もっと解りやすく言うと、自分の中に無い感覚を、一つずつ身に付けていった時期と、自分の中に眠っていた固有の感覚を見付け呼び起こす時期とがありました。
 その結果、即興を学んでからは、書かれたものをいかに即興的に演奏しようかと考えるようになったし、自然に練習の仕方等も変わりました。この意識の違いは、自分の中で大きな変化でした。

今回のプログラムでは、ご自身の「即興によるソナタ」も披露していただきます。

 自作となっていますが、これは作曲ではなくあくまで提案です。こう言った主旨で即興をしませんか?という(笑)。その主旨ですが、私の思うソナタとはこんな感じなんです。
 第1楽章は、器楽的で美しい様式美をもつソナタ形式。楽器で言うとまるでピアノの様な。第2楽章は、メロディアス(声楽的)で人間味溢れるリート形式。歌や管弦楽器を思わせます。第3楽章は、速いビートと躍動感に溢れた、人間の本能を思わせる楽章。打楽器こそ、その象徴的な楽器ではないでしょうか!そんなイメージから、この楽器の組みあわせでソナタ形式の即興をやってみたいと以前から思っていました。ソナタという形式と楽器の特徴とのコラボレーションです。今回の3人が一緒のステージに立つのは初めてですが、お二人とも即興の達人です!きっと面白い“即興ソナタ”になると確信しています。その瞬間に出来、そして二度と聴けないソナタを楽しみにしていてください。

特に聴きどころを教えていただけますか?

 確かに、ソナタとは西洋音楽史が生んだ最高傑作です。こうして4つのソナタを並べてみると、形式美という共通点以上に、それぞれの時代背景や暮らし、価値観などの”違い”が聴こえてくる気がします。そこにあるのは「形」ではなく、「人」だと思うのです。そんなことも意識しながら楽しんでいただければと思っています。

作曲される際に大切にされていることは?

 素直になることです。自分の中に自然に生まれる発想を大切にし、それがどんなことであれ受け入れることです。でないと、自分自身を否定してしまうことになるからです。
 もう一つは、諦めないこと。自分の中でなっている音を、根気強く、それがどんなに細い糸のようでも、諦めることなく、手繰り寄せてつかまえます。

最後に、クラシック奏者だけでなく、いろいろなジャンルの演奏家の方たちとの共演が多いと思いますが、苦労されることはありますか?

 演奏する順番が、クラシックからジャズや即興だったら大丈夫です。その逆は辛いですね。ジャズや即興はベースをとっぱらうわけですから、それを元に戻すのは大変なんです。例えば、オーケストラの中で吹く場合でも、ジャズや即興の本番をやった後は1週間から10日は必要です。クラシック音楽を演奏していく中であっても、自己を解放する為には、技術面など最低限の部分をしっかりしておくことは絶対必要です。ですから、公演から次の公演までの時間は、出来るだけ取るようにスケジュールを組んでいますが、時々、1週間とっていても、その前の疲労が中々抜けきらず大変なこともあります。今回のプログラムの順番もそうでしょう。これが逆になったら大変なことになりますから(笑)。

平野公崇 サクソフォン リサイタル

2004/3/24(水) 14:00

山田武彦(ピアノ)/クリストファー・ハーディー(パーカッション)

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