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インタビューInterview

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ヨーロッパの伝統的スタイルで語られる、のびやかな「大公」。
ベートーヴェンの味わい。
 

久保田 巧 Takumi Kubota

林 峰男 Mineo Hayashi

清水和音 Kazune Shimizu

聞き手=
トッパンホール

“トッパンホール アンサンブル”は、メンバーを固定しないアンサンブルをシリーズとしたことに、当初、驚きやとまどいの声もあがりましたが、第1回、第2回とも好評をいただき、ライヴCDにもなりました。第3回の今回は、ピアノ・トリオ「大公」をメインにしたベートーヴェン・プロを取り上げます。「大公」は以前、ほかの会場から依頼を受けて企画し、今回のメンバーで演奏していただいたことがあります。

久保田: あの時は、とても面白い演奏ができました。合奏、というと、合わせることに意識がいって小さくまとまりがちになり、そうやってちいちゃくなっちゃうのは個人的にぜひ避けたいんですけれど、おふたりとは、広がりを持った大きな音楽が鳴らせました。

林: 本当に楽しかったですね。共演者が素晴らしいと、こんなに簡単なものかと思った。チェロはどうしても、低音で支える縁の下の力持ち的な面があるから、実力やキャリアが同等か上の方が相手じゃないと面白くない。僕はソロ中心で、室内楽をやる機会があまりないから、ご一緒できて嬉しかったです。

清水: 非常に自然に寄り添えたというか、遠慮や無理がなく、きれいにまとまりましたよね。

久保田: よく音を聞き合えて、弾きやすかった。ピアノ・トリオだと、それぞれの楽器の自由度が高いというのもありますね。ピアノは音の質が全然違うし、チェロとヴァイオリンは音域がだいぶ離れていて、ボウイング(弓づかい)にもそれほど気をつかわなくてすむ。

清水: 3人がバラバラでも面白い、個性の違いが許容できる編成ですね。弦が増えて、ピアノ・クァルテット、クィンテットとなっていくと、弦とピアノ、という感じになるけれど、それぞれの楽器が独立している面白さがあると思います。

林: チェロの立場からいうと、アンサンブルの人数が増えれば増えるほど、チェロの役割はだんだん薄くなって、メロディは弾けなくなるし、弾けてもちょこっとだったりね(笑)。トリオは比重も大きいし、同じメロディをそのあと受けて弾くときに、前の人と全然違うように弾いても面白い、個性の豊かさが楽しめます。4人が一体というような側面をもつ弦楽四重奏のチェロとは、必要な資質が全然違う。

久保田: ソリスティックな面が強いから、派手だし華やかですよね。

清水: それぞれの奏者が自由である、というのが最低条件かも知れない。昔は、大スターが集まって、たくさん演奏されてましたね。

ですが最近、ピアノ・トリオは敬遠されがちなジャンルです。チケットが売れない、と言われている。多くの名曲と魅力的な演奏が綴られたジャンルなのでもったいない、と思っています。

久保田: コンサートとしては、人数が少ないから地味に感じちゃうのかしら。

清水: 著名な演奏家、いいソリストを揃えようとすると経済的な事情が出てくるとか、そういうことのような気もしますね。

林: それぞれの演奏家のファンに、組み合わせの面白さで聞いてもらうのは、楽しいと思いますけれどね。

今回は、オール・ベートーヴェン・プログラムです。

清水: ベートーヴェンは、難しい。「大公」にしても、ピアノ・トリオのなかでたぶん、いちばん音楽づくりが難しいし、難解なんじゃないかな。シューベルトにしてもブラームスにしても、メンデルスゾーン、チャイコフスキーにラヴェル、おなじトリオでも、それなりに華やかだし、ずっと聴きやすい。

久保田: でも「大公」は、本当に傑作だし、いい曲ですよね。

清水: それは、そう。でも、パッと聞いてメロディに惹きつけられたり、響きがきれいといった、わかりやすさ、表面的な美しさが際立っているわけではないですからね。シューベルトだったら、“音さえキレイなら”という持ち味勝負、得意技で何か魅力を出すことが出来ても、ベートーヴェンには、総合的な能力が要求される難しさがある。「大公」に限らず、彼の作品全体に言えることですね。

林: チェロ・ソナタなどで共演すると、そのピアニストの実力がすぐにわかります。タッチの正確さや粒の揃え方など、ごまかせない。

清水: 古典の能力から腹の据わり具合からわかってしまうし、腹の据わり具合は大事ですしね、ベートーヴェンは。音楽家としての本質的な能力が問われる作曲家だと思います。

久保田: 確かにそうですね。

でも、みなさんのこの間の演奏会では、聞かせるのが難しい3楽章の長いゆっくりしたところなど、お客さまが惹きこまれていく感じがすごくありましたよ。

清水: 確かにね。ピアノは1楽章の出だしがいちばん弾きづらくて嫌だったり、2楽章でも途中、何だかわからないところがたくさんあって、とにかく難しいと思うんだけれど、この間は、そういうのが結構ちゃんと整理されて、明確に伝わった手応えがありました。

久保田: そんなに細かい打ち合わせはしませんでしたよね。言葉で確認したりとか。

清水: 言葉で言うようになったら上手くいかない、たぶん。

林: 僕は上手くいったことしか覚えてないな(笑)。

前半の2曲については。

林: 僕は以前、宗倫匡さん、深井碩章さんとストリング・トリオ(東京ストリング・トリオ)を組んでいたのですが、同じ3人でも、弦3本は、ピアノ・トリオと違ってとても難しい。音色やボウイングを揃えたり、音色を揃えるために共通理解を深めるいうか、同じ意図を持って弾かなきゃならない部分がでてきます。そういう細かな作業が短期間にどこまでできるか、というところがあります。

久保田: ベートーヴェンのピアノ四重奏曲は、ウィーンで組んでいたウィーン・ピアノ四重奏団の主なレパートリーのひとつでした。オリジナルは管楽器4本とピアノなのを、ベートーヴェン自身が書き直しているのですが、オーボエがヴァイオリン、という風に対応しているかというと、そうではない。一度バラバラに分解して組み立てなおしてあるので、それぞれのパートに、複数の楽器の音色が聞こえてきます。それも面白いし、弦3本のバランスがとてもいいのも魅力。ベートーヴェンのなかでは、ゆったりした、大らかで平和な感じが、ちょっと「大公」に似ていると思います。あまり演奏されない曲ですが、いい曲なので、ぜひみなさんにお聞きいただきたいと思います。

なぜか録音もほとんどない曲ですが、トッパンホールでは1度、園田高弘さんのシリーズでも取り上げた、こだわりの曲です。前半にはヴィオラの鈴木 学さんが入って、また違った深みや刺激があると思います。

久保田: 鈴木さんは、ブルックナー・オーケストラ・リンツで首席を務めていた方です。その頃はときどき、ウィーンで一緒に遊んだりしていました。だから、私がウィーン、林さんがジュネーヴで、中央ヨーロッパの色が濃くなりますね。

清水: そうそう。林さんも久保田さんも、共演した印象で“ヨーロッパ的”ということが強くあります。ヨーロッパの標準語というのかな、ヨーロッパの伝統的なスタイルのなかで、普通に音楽的会話ができる方と演奏するのは楽しい。ごく普通に弾けば寄り添える感じがしますね。

林: 巧ちゃんはいろんな仕事でご一緒させていただいていて、実に気持ちのいい仲間。和音くんは、知り合ったのはまだ彼がロン=ティボーで優勝する前、少しだけジュネーヴに留学していた時で、でもちゃんと共演したのはこのあいだの「大公」が初めてでしたから、今回、また楽しみです。

久保田: 楽しくなりそうですね。

清水: 音を出してみないとわからないとは言え、いい顔ぶれと共演する、こういったアンサンブルは面白いと言えますね。5月、楽しみにしています。

トッパンホール アンサンブル Vol.3

2007/5/20(日) 17:00

久保田 巧(ヴァイオリン)/鈴木 学(ヴィオラ)/林 峰男(チェロ)/清水和音(ピアノ)

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