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インタビューInterview

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肌で感じたウィーンの歴史、人、暮らし
その息づかいを音楽にのせて
 

久保田 巧 Kubota Takumi

聞き手=
トッパンホール

 今回のリサイタルは、副題に「ウィーンを弾く」、シリーズ名にも〈ウィーンからの風〉とある通り、ウィーンをテーマにまとめました。ウィーンで暮らし活躍した作曲家たちの作品を集め、共演はウィーンで生まれ育ったパウル・グルダ。私自身も10代の頃からウィーンで音楽を学び、活動の拠点にしてきて、自分にとって音楽のふるさとだと感じる街ですから、ウィーンらしい馥郁とした香りを感じていただける時間をお過ごしいただけたらと思っています。

 プログラムは、この夏にウィーンでグルダと片っ端から候補曲を一緒に弾いて、話し合いながら最終的に決めました。彼とはここ最近たびたび共演していて、2008年にはトッパンホールでオール・ブラームスを弾いているのですが、シューベルトやモーツァルトも是非一緒に弾きたいとだいぶ以前から思っていましたので、(特にシューベルトは今回初めて実現するので)とても楽しみです。クライスラーについては、ヴァイオリニストのつくった曲ですので、ピアニストにとっても面白く弾けて、かつ音楽的にもクオリティが高いものをと考えて選びました。そうやって決めていったら、結果的にモーツァルト、シューベルト、ベートーヴェンはすべて彼らの晩年の作品になりました。ヴァイオリンとピアノという形でそれぞれの作曲家が書いたかなり最後の方の作品なので、どれもとても円熟した円熟といってもモーツァルトとシューベルトは30代に亡くなっていますが、でもやはり10代、20代の頃の作品とは深みも大きさも違う作品が並んで、非常に中身の濃いプログラムになったと思っています。

 例えばベートーヴェンのソナタ10番は、年齢を重ねて様々な経験をした彼が、いったん童心に帰ったような音楽。形式的にも自由な感じで、とても素直なメロディーからはじまり、終楽章はお得意のヴァリエーションも展開される曲ですが、さりげないなかに実はすごく深いものがある、とても難しいソナタです。でも“大人の音楽だから若いうちは難しい”と言われ続けたブラームスなどもそうですが、いつの間にか自然に理解できる、演奏するのにちょうどいい年齢になってきたのかな。自分が生きてきた年月のなかで、自然に作曲家の等身大を感じながら音楽を形づくることができるようになっている気がします。今回も何かをしようとするのではなく、自分のなかから湧きあがる思い・声に素直に耳を傾けながら、ピアノとヴァイオリンが会話していくなかで生まれるものを大切に演奏したいですね。グルダはリハーサルも、本番に近づくほど、発見や再発見をどんどんしていくピアニスト。ちょうど同年輩で、ウィーンという共通のふるさとを持っていることでも通じ合っていますし、同じような息づかい、感情の動き、タイミングで音楽を創っていける、それも共演者としての彼の魅力だと言えます。

 ウィーンで音楽を学んだり演奏する上で日本と一番違うのは、ウィーンの言葉のなかにいてそれをする、ということ。街を歩く歩幅や一歩一歩のリズムみたいなものも含めて、ウィーンの言葉・息づかいの中で演奏することは、自分自身、とても自然に感じます。言葉のことでもう一つ言うと、ウィーンのドイツ語は母音が前面に出て子音が強くない、むしろイタリア語に近い明るい響きで、まるで歌を歌っているような言葉なんです。このウィーン的な「歌う」という要素が、今回取り上げる作曲家たち全員のなかにも息づいています。楽譜には書かれていないけれど、作曲家が「あとは自然にやってください」と言っている部分は、言い換えれば彼らの使っていた言葉から汲みとるニュアンス。言葉、その背景にある歴史、人、暮らしを踏まえた「ウィーンなまり」の音楽の魅力を、心から楽しんでいただけたらと思います。

〈おとなの直球勝負 11〉〈ウィーンからの風 14〉久保田 巧(ヴァイオリン)―ウィーンを弾く

2011/2/6(日) 15:00

パウル・グルダ(ピアノ)

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