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インタビューInterview

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クライネフ先生から学び受け継いだこと、
先生への想いをプログラムに託して
 

河村尚子 Hisako Kawamura

聞き手=
トッパンホール

新シリーズ〈アジアの感性―多彩な才能とその多様な可能性〉のトップバッターとして登場する河村尚子。自身にとっては〈エスポワール シリーズ〉のスタートでもある今回のリサイタルは、師、クライネフへのオマージュとして、彼が敬愛したプロコフィエフの作品でプログラムを組み上げています。3月の公演を前に、作曲家・プロコフィエフとその作品の魅力、そしてプログラムに込めた師への想いを語っていただきました。


 エスポワールシリーズの趣旨が“挑戦”と“成長”とうかがい、今回出演させていただくのをとても楽しみにしています。3回の公演では、初回はソロ、2回目はリートとのデュオ、3回目ではチェロとのデュオをお聴きいただく予定です。どの回も自分にとっての“挑戦”になる内容で組み、シリーズを終えたあとには何か、現在と違う地平が見通せて“成長”できているといいなと思っています。
 また、このシリーズのスタート公演は〈アジアの感性〉の初回にもなっていて、クン=ウー・パイクさん、シュ・シャオメイさんという尊敬すべき大先輩がたの個性的なプログラムに並び、同じシリーズの中で演奏させていただけることも、とても光栄に感じています。

 1回目のソロは、オール・プロコフィエフにしました。プロコフィエフ作品は、今年亡くなった恩師ウラディミール・クライネフ氏がとても大切にしていたレパートリーで、先生への想いを込めたプログラムです。以前から取り組んでいましたが、私が先生から学び受け継いだこと、伝承されたものを皆さまにお伝えするのに絶好の機会だと思い、日本では初めて演奏します。ベテランの人気ピアニストでも、集客を考えるとたぶん勇気のいるプログラムだと思いますが、舞台の気配が客席のすみずみまでいきわたるトッパンホールで、本当にプロコフィエフを聴きたいと思っているお客さまに、じっくり聴いていただけたらと願っています。

 曲目は、第2番(1912)と第6番(1939)、ふたつのソナタを軸にしました。どちらもクライネフ先生がよく演奏していた曲なのですが、残念なことに実演される機会は少ないと思います。特に第6番は《戦争ソナタ》のひとつでありながら、7番や8番に比べてあまり弾かれません。30分にわたる4楽章形式の大曲で、スケルツォもあり、緩徐楽章もあり、フィナーレはかなり大きい。3楽章形式でコンパクトに終えている7番と比較してスケール感が高く、内容的な充実度から言っても、もっともっと演奏されていい曲だと思います。そしてそれぞれのソナタには、小品集を組み合わせました。前半、ソナタ第2番の前は《ロメオとジュリエット》(1937)。プロコフィエフはバレエ音楽をたくさん書いているので、そのなかから選んでみました。《シンデレラ》も大好きで弾いたことがありますが、今回は新しい曲に挑みます。後半のはじめ、ソナタ第6番の前には《束の間の幻影》(1915-17)を置きました。これも新しいレパートリーです。前半と後半それぞれに、若い頃の作品と円熟期の作品を並べたのは、コントラストをつけたかったから。プロコフィエフが、第一次世界大戦を経験する前と、した後の、作品の手触りの違いみたいなものを楽しんでいただけたら、面白いと思っています。

 プロコフィエフの作品に感じるのは、共通して“とてもバランスがよい”ということです。ただ単に超絶技巧を聴かせるような曲はなく、交響曲や室内楽曲を見ても、形式、作品の組み立て方、テーマをどう展開させていくかなどに、かなりこだわりがあったことがわかります。たとえば、私はリストを弾いていると「超絶技巧に加えてとても情感豊かなのに、何か足りない」という感覚を持つことがあるのですが、プロコフィエフにはそれがない。情熱的な反面とても冷たい面も併せもち、シニカルな部分もあればユーモラスな部分もあってと、さまざまな感情が曲の中に描かれている。そして技巧的な充実がある。全方位にバランスがよくて偏りがなく、ピアノが持つ多くの可能性を彼の時代のなかで表現した人だと思います。かなり頭のいい人だったでしょうし、ピアニストとしても大変優れた人でした。ですので、プロコフィエフ作品を演奏することは私にとって大きな挑戦であり、快感でもあります。同じロシアでもショスタコーヴィチなどと比べると、どこかとらえどころがないのか関心が集まりにくく、充分評価されていない印象も受けますが、他の偉大な作曲家たちと比較してみても、もっと尊敬されて然るべき存在なのではないかと感じる人です。

 シリーズはそのあと、ソプラノのクリスティアーネ・エルツェさんとのリート、チェロのクレメンス・ハーゲンさんとのデュオへ続きます。
 リートは、2010年のトッパンホール・ニューイヤーコンサートで初めて機会をいただき2曲だけ演奏しましたが、楽器とは異なる“声”の持つ特性、その奥深さには以前から関心がありました。音楽に詩=言葉が融合している点でも、リートの世界は本当に魅力的だと思います。共演のクリスティアーネはとても生き生き音楽を創るかたで、いたずらっ子のような面もあり、性格的にも音楽的にも、自分と通じる部分を感じます。センシティブな“声”という楽器との共演は新たなチャレンジですが、とても楽しみです。
 チェリストとしてソロ、室内楽と世界中で活躍されているクレメンスとのデュオも、待ち遠しい。彼はとても気さくでシンプルな方。飾りっ気がないけれども、自身が音楽というか、音楽が身体全体から溢れてくるような魅力があって、彼との音楽がどういうものに仕上がるのか、ワクワクしています。

 クライネフ先生が亡くなって(2011年4月29日)もう、半年あまりが経ちました。亡くなられた時はショックで悲しみにくれましたが、今は何をするにも先生の言葉が浮かんできて、そのスピリットが自分のなかに生きているのを実感します。彼の姿に学んだことのひとつが“活き活きと毎日を楽しむ”こと。生きることの大切さ、幸せに感謝する気持ちを、日々忘れてはいけないのだと。人としても、音楽家としても、クライネフ先生から学んだことは多すぎるほどですが、エスポワールでの3回の演奏会を通じて活き活きと、いろいろなことに挑戦しながら、いま私が感じている幸せや感謝の気持ちもお伝えできたら嬉しいと思っています。

〈エスポワールシリーズ 9〉河村尚子(ピアノ)

〈アジアの感性―多彩な才能とその多様な可能性 1〉Vol.1 ―ソロ 師クライネフへのオマージュ

2012/3/7(水) 19:00

〈歌曲(リート)の森〉 ~詩と音楽 Gedichte und Musik~ 第11篇Vol.2 ―リートへの憧れ。C.エルツェを迎えて

2012/12/5(水) 19:00

クリスティアーネ・エルツェ(ソプラノ)

Vol.3 ―Duo クレメンス・ハーゲンを迎えて

2013/6/19(水) 19:00

クレメンス・ハーゲン(チェロ)

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