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インタビューInterview

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ベルリン古楽アカデミーとの刺激的な挑戦  

ジャン=ギアン・ケラス Jean-Guihen Queyras

聞き手=
トッパンホール

 私の心のなかで、トッパンホールは特別な位置を占めています。日本初リサイタルをした場所で、それも無伴奏だった。そういうご縁は一生忘れられないものです。さらには、素晴らしい音響を持つホールとの出会いでもあり、あたたかなスタッフとの出会いでもありました。スタッフはいつもウェルカムな雰囲気で迎えてくれて、最初の公演のときにはなんと“納豆”が用意されていました! 私が納豆が大好きだということを事前に調べてくれていたんですね。とても嬉しかったし、今でも大切な思い出です。

 これまでトッパンホールではソロ、デュオ、クァルテットとさまざまな形で演奏してきましたが、今回は初めてコンチェルトを弾きます。私にとって非常に刺激的な共演相手である、ベルリン古楽アカデミー(AKAMUS)との新たな挑戦です。AKAMUSとはすでにヴィヴァルディの録音でコラボレイトしていますが、私にとってはそれが彼らとの、そしてバロック音楽への本格的な取り組みという意味で初めての試みでした。AKAMUSのヴィヴァルディの演奏は、バロックの語法としてアーティキュレーションがはっきりしていて、少し尖った音というのでしょうか、音の鮮明さが際立ち、そして作品を深く追求していくスタイルを持っています。フライブルク・バロック・オーケストラがどちらかというと豊満な、グラマラスな音を生み出すのに比べると、旧東ドイツの色が残っているというか、厳格かつアーティキュレーションを強調しコントラストを最優先に聴かせる、極端な言い方をすると非常に打楽器的な手ざわりの音を出す印象があります。ですから音自体が本当に生々しく、鮮やかにダイレクトに伝わる、そしてそんな彼らの演奏がヴィヴァルディの音楽にダイナミックな息吹を吹き込み、作品の生命力をさらに魅力的に輝かせていると感じます。彼らとの演奏は私にとって大きな学びを得る機会になり、今度の共演も非常に待ち遠しく思っています。

 今回は、ヴィヴァルディにカルダーラという、CDをベースにした曲目を組みました。実はこれは、ゲオルグ・カールヴァイト(AKAMUSコンサートマスター)が、これらの作曲家に対する知識が誰よりも深いからこそ成立するプログラムと言えます。ヴィヴァルディは、非常に挑戦的な要素を持つ革新性に富む作曲家で、そこには当時のイタリア、ヴェネツィアを包んでいただろう刺激的な空気が色濃く反映されてもいます。ところがその真価は未だ充分知られておらず、彼の作品をまとめて演奏するとむしろ、似通った形式のものが淡々と並ぶだけの、単色で平板な風景が現れがちです。ですが、作品への深い理解があるカールヴァイトの視点が加わると、この難しいプログラムも単調に陥ることなく、非常にコントラストの効いた多彩な音像の連なりとして立ち上がるのです。ヴィヴァルディの生きた時代は、それまではなかったヴィルトゥオーゾの面が急激にクローズアップされたドラマティックな時代でもあって、彼の作品から弦の歴史を見通していく試みとしても、とても興味深くお聴きいただけると思います。

 当然のことですが、音楽を再現するにあたっては作品にさまざまな角度から光をあてる努力が必要で、学生や若い演奏家には「楽譜の裏にあるものを最大限に読み取ってほしい、作曲家がどういう思いでその曲を書いたのかに充分想像をめぐらせ、しっかり感じ取って音にしてほしい」ということをよく言います。テクニックや知識だけではなく、作品とのある種本能的なコミュニケーションがあってこそ、自分が“表現したい”と感じることをより深めていけるはずだと確信しているからです。

 そして、人に教えるというのは同時に自分が学ぶということでもあって、今の言葉はそのまま、つねに自分自身にも返ってくるものでもあります。どんな作品・プロジェクトに向き合う場合にも、私はまずその作曲家が机に向かっている姿を想像してみる、そしてインクが楽譜の上に落ちてくるまでの間に“彼に起きている何か”といったところに思いを馳せます。今回の演奏会にしても、ヴィヴァルディが生きた時代のイタリアの躍動感や、彼が時代の流れとどんな風に繋がりながら作品を創りこんだのかを知ること、感じ取ることはとても重要です。

 トッパンホールは、私が尊敬するたくさんのアーティスト―たとえば、テツラフやエマールなどとも時間をかけてコラボレイトし、強い絆を結んでいますが、私自身も10年以上にわたり8回もの公演をさせていただいているのを本当に光栄に思っています。今では日本でも、さまざまな素晴らしいホールで演奏する機会がありますが、トッパンホールのお客さまの前で演奏するときの心持ちにはちょっと特別なものがあって、「あぁ帰ってきたんだなぁ」と、親しい友人の家で演奏するようなあたたかい気持ちになります。2001年の初リサイタルの時から変わることなく、トッパンホールのお客さまはいつも音楽を真っ直ぐに受け止め、そして私の気持ちに応えてくださる大切な存在。いくつもの経験を重ねたステージで、また新しい挑戦を皆さまにお聴きいただく時間を心から楽しみにしています。

ジャン=ギアン・ケラス(チェロ) with ベルリン古楽アカデミー

2012/12/8(土) 17:00

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