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インタビューInterview

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気高い精神が拓く、新世界への扉 トッパンホールプレスVol.82より

ジャン=クロード・ペヌティエ Jean-Claude Pennetier

取材・文=
トッパンホール

 スクリャービンが、亡くなる12日前に弾いたプログラムを弾く──。このアイディア自体は、1970年代、パリのポンピドゥーセンターが始動するときに展開された、「パリ─モスクワ」というイベントのなかで生まれました。音楽に限らず絵画や文学的なもの等さまざまな表現芸術を包括した企画で、コンサートも数多く開かれ、そこではスクリャービンも含めたロシア・アヴァンギャルドの作曲家が多くフィーチャーされて、私も幅広く参加しました。そのうちのひとつが〈死の12日前のプログラム〉だったのです。当時はヒッピー文化が隆盛で、演奏会場も、いま私たちが知っている端正で古典的な雰囲気ではなく、絵画やオブジェ等があちこちに置かれ、先端的な表現を感じさせる装飾のある場所でした。そこに、文化的関心の高いフラワーチルドレンがたくさん集まって、私が弾いている間ずっと、拍手もせず、みんなで瞑想しながら聴いていて。1時間以上のあいだ一切拍手なしで弾くという、とても不思議な経験をしました。

 スクリャービンは、私にとって非常に特別な存在です。初めてこのプログラムに触れたときには、彼自身の思考の道筋、どのようにこの選曲・構成に至ったのかに興味を惹かれました。自分自身との接点を模索しながら、そこをなぞってゆく、哲学的な思考に遊ぶとでも申しましょうか。彼の東洋主義だったり、神秘主義だったりを感じながら、自分とスクリャービンの世界の接点を探ってアプローチしていきました。そういうなかで特に心の琴線に触れたのは、スクリャービンの実現不可能であろうことに果敢に挑んでいく姿勢です。アクセスできない世界へ自分を引き上げようとする、天上の、現実世界とは異なる次元へ飛んでいこうとする欲求ですね。その意志の美しさは、ギリシャ神話のイカロスに通ずるのではないか、そういう精神を持った人なのではないかと思います。そんな遥かな高みを目指す精神の気高さは、強烈な個性として明らかに彼の音楽言語にも投影されていて、和声や音程、音の造形にその欲求が刻まれて複雑化したものが、解決されないままになっているところがある。欲求が成就されない切なさとでも申しましょうか。成就できないからゆえの凄さ、その常軌を逸した佇まいが、実に美しいと感じますし、なんなのだろうこれは、と心惹かれるのです。

 作曲家・スクリャービンは、ショパンに強い憧れを持っていたという伝統の流れのなかから出発してアヴァンギャルドの最先端のほうへいった人ですが、どこかで極端に変わったのではなく、一歩一歩を生きた人なのだと思います。今回のプログラムでは、リストの最後の曲を組み合わせましたが、スクリャービンとリストには、未踏、未開の世界を拓こうとしながら、そこへ連れていかれてしまうという共通性を感じます。そしてそこには新しい言語があり、彼らにしかない想像力の道筋で緻密に積み上げられたものが感じられる。彼らのイマジネーションの働きをイメージして弾いていると、その感性の鋭さを非常にリアルに感じます。

 リストのほかは、シベリウスとシェーンベルク、それからモスクワ音楽院で同級生だったラフマニノフと、スクリャービンと同世代の作曲家を組み合わせました。「同時代でいうとドビュッシーが入らなかったのがちょっと意外」と、ホールの西巻さんに言われましたが、みなさまの予想を外すのも、私の個性です(笑)。

ジャン=クロード・ペヌティエ(ピアノ)
スクリャービン 死の12日前のプログラムを核に

2016/12/17(土) 19:00

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