TOPPAN HALLTOPPAN HALL

MENUCLOSE
 

TOPPAN HALL

TOPPAN HALLTOPPAN HALL

MENUCLOSE
 

TOPPAN HALL

インタビューInterview

Back

ケラスにおくる、新たな挑戦 トッパンホールプレスVol.83より

作曲家・藤倉 大 Dai Fujikura

取材・文=
トッパンホール

トッパンホールでの日本初リサイタルから、15年。もはやその実力は広く知られ、今ではチェロ新時代を拓いた旗手として世界的な地位を不動のものとした、ジャン=ギアン・ケラス。初リサイタルと同じ現代作品による無伴奏プログラムをお届けする今回、ホールはチェロ界のメインストリームを歩む彼に“新たな挑戦”を用意。それは、世界的に今をときめく作曲家・藤倉大へ新作「ケラスのための、めちゃくちゃ難しい15分の曲」の委嘱。公演までまだ半年以上もある昨年12月、すでに曲を書き上げた藤倉さんにお話を聞きました。


 ケラスに初めて会ったのは6年くらい前ですが、彼はアンテルコンタンポランにいましたし、当然以前から知っていました。「若いころの、もっと尖っていた感じをケラスに思い出してもらいたい」というホールからの依頼趣旨のひとつにも、すごく共感して喜んでお引き受けしました。チェロの曲を書くのは久しぶりで、そもそも15分というのが、そう書かせてもらえる長さじゃない。ソロのものでは、これがいちばん長い作品です。

 作曲時には必ず再演を念頭に置くので、長めの作品でも複数のパートに分けて構成し、一部を取り出したりいくつかを組み合わせてもプログラムに入れられるようにするのが、これまでの僕のスタイルでした。でも今回は、15分をひとつのラインで繋ぐような大きな作品を書きたいと思った。それというのも作曲にあたり、チェロという楽器がどうつくられているのか、YouTubeやチェリストへの取材で、かなり徹底的に調べたんです。それで、ボディにしても弓にしても、ものすごい労力と熱意でつくられていることを思い知った。あそこまでのパッションでつくられた楽器から豊かさを表現しないのは、作曲家としてどうなのかと、これまでになかった構成的実験を入れ、ひとつの流れを編む感じで今回はつくったんです。ひとつの流れが発展して、リリカルでありつつ、ときにスタッカートで飛びまくったり、リズムパターンみたいなものが出てきて、それがハーモニクスのメロディーから駆け巡るようなものになったり。楽譜にはところどころに、No gapと書いています。実は、僕の作品は奏者が休みたいところで休ませない、ディミヌエンドしたいところがクレッシェンドになっていたりなど、不自然なところが多いらしい。ソリストが呼吸したい瞬間に、No gap、No gapって(笑)。ケラスにも、ぜひひと息で弾いてもらいたい。譜めくりもしてほしくないので、楽譜製作もかなり工夫しました。iPadを見ながら弾くのには最適な曲です。

 僕の作風なのだと思いますが、現代的な技術が必要なことに加え、すごく美しいトーンで美しいメロディーを奏でることを要求します。ケラスはどちらも持った稀有な人ですね。今回の曲でうまくいったと思うことに、ポジションがあります。ポジションはひとつのまま、ハーモニクスとハーモニクスじゃない音が混合していて、全部スタッカートで速く弾くところ。2オクターヴ、3オクターヴと音は飛びまくるのに、左手はワンポジション。指づかいから全部考えて書きました。僕はいつも、曲は奏者と一緒につくりますが、ケラスは忙しくて連絡がつきづらかったので、シカゴ響の友人に実際に弾いてみてもらって完成させました。今回は時間をかけて、3~4ヶ月かかって書いたと思います。

 曲は〈osm〉と名づけました。CG的に刻々変化していくイメージに加え、感触、噛み応えみたいなところもイメージにあって、最初に思いついたのはosmosis。でも、ありきたりな気がして短くosmにしたら字面が丸くて、チェロのボディにも見える。organismにも見えるし、orgasm的部分も感じる。それがあるから音楽を聴きたいわけだし。あと、osmはチェコ語では「8」の意味で、無限大記号。さらにはアメリカのティーンエイジャーが使う「最高!」という意味の「オーサム」が、綴るとosm。縁起もいいと、決めました。

 僕はよく多作と言われますが、それはきっと「作曲家」だけに専念しているからです。締め切りよりだいぶ前に作品を完成させることにより、奏者に“練習の時間がなかった”とは絶対に言わせない。それに、最終線を書くのは音楽が終わったからであって、締切が迫って終わらせたのではない、という自分への証明の意味もあります。

 あとは、ケラスがちゃんと練習してくれるか。スターは忙しいからなぁ(笑)。でも技術的に可能なことは友人が試してくれましたし、まだ半年ありますしね。どんな姿で曲が鳴るのか、立ち上がるのか、6月が楽しみです。

ジャン=ギアン・ケラス(チェロ) ケラスが弾く20世紀、21世紀―。

2016/6/21(火) 19:00

このページをシェアする♪

Page top

ページトップへ