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インタビューInterview

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長年の熱い想いをのせて
憧れの人と共に立つ夢のステージ
トッパンホールプレスVol.105より

島田彩乃 Ayano Shimada

取材・文=
トッパンホール

今日は何だか、いつも以上に華やいでいらっしゃる印象です。

モルクさんのお話をするので、気持ちが高揚しているのかも知れません。少し緊張もしています。

ではまず、モルクを知ったきっかけから伺えますか?

チェリストの友人から「すごく尊敬している。いま世界でいちばん上手いのはモルクだと思う」と聞かされていて、2005年に留学先のパリから一時帰国したときに、東京文化会館でモルクさんのリサイタルを聴いたのが最初です。素敵な演奏をする方だなくらいの印象でしたが、パリに戻ってほどなく、J.S.バッハ《無伴奏チェロ組曲》のリサイタルがあり、また聴きに出かけたら、日本でのロマンチック・プログラムとは作品に対するアプローチが全然違って、モダンで弾いているけれど、バロックの弓づかいを研究なさったうえで彼なりのバッハを表現されていて音楽に対して真摯な方だなと感銘を受けました。その直後、TVでN響とのシューマンの協奏曲を聴いて、それがもう、ただただ素敵で素晴らしすぎて。佇まいからして紳士的で

すっかり魅了されてしまったと。

ノックアウトでした。次にモルクさんがピアノとのデュオでパリに来たときには、CDもたくさん聴いていて、彼に対する想いがものすごく高まっていました。「私のCDを聴いてもらおう!」と決心して「あなたの音楽が大好きで、ぜひいつか共演したいです」と手紙を書いて、終演後のサイン会にドキドキしながら並んで、やっぱりやめようかどうしようか、気持ちが行ったり来たりするうちに順番が来て、「ファンです。CDも演奏会もたくさん聴いています」と必死に想いを伝えました。「君はピアニストなんだね」と笑顔を向けてくださって。

そういうことは普通、チェリストから言われるのでしょうね。

ピアニストだから、記憶に留めてもらえたみたいです。「パリにいる日本人の音楽家」ということも印象的だったかも知れません。1年後にまたパリで演奏会があって、思いきって楽屋をお訪ねしたら、私を覚えていて「CD聴いたよ。すごくよかったから、いつか一緒に弾けたらいいね」と言ってくださって、嬉しすぎてもう舞い上がってしまって。その後も演奏会に行ってはご挨拶するということが続くなか、私がライプツィヒに移ってすぐの2008年に、ゲヴァントハウス管のソリストでいらしたとき、初めてゆっくりお話できることに。彼のオフ日で、一緒に音を出そうと言っていたのですが、手の故障が出始めたころで調子がよくなくて、お茶になりました。

2人でリサイタルをするならどんなプログラムがいいかなと話も弾み、私のほうは希望に満ちていましたが、ほどなく彼は休養に入られ、ご連絡しづらい時期が続くことに。私が日本に帰国して数年が経った2015年、モルクさんがN響との共演のために来日。もう忘れていらっしゃるかも、と思いながら楽屋をお訪ねすると、「ライプツィヒで会った子だよね!」と言ってくださって。本当に嬉しかったです。

島田さんをそこまで夢中にさせるモルクの魅力とは何でしょう。

なんといっても「音」ですね。力みがまったくなく、いつも余裕があって音に包容力がある。どんな曲を弾いても嫌な感じの音が一切なくて説得力に満ちています。多くの演奏会に臨むなかでは、ときに集中が弱まったり不調ということもありそうなのに、この十数年何度もお聴きしてきて、そういうことが一度もない。ご自身ではいろいろあるのでしょうが、聴き手にそれをまったく感じさせません。いつも完璧。とても尊敬しています。

技術のほうが勝っていて、なんでも軽々弾いてしまう、ということがまったくないんですね。

一音一音にかける思い、こだわりビブラートひとつとっても、試行錯誤して出されている音なのだろうと感じます。音の「深さ」が違う。音楽をじっくり感じながら弾いていることがよく伝わります。雄弁で奇をてらうことをせず、素材の良さをそのまま生かすような演奏は、彼の生まれた町、ノルウェーのベルゲンの雄大な自然にも起因しているかも知れませんね。

プログラムについてお話しください。

ブラームスを好きになったきっかけでもあるこのソナタは、初めてチェロとのデュオに取り組んだ曲です。それまで取り組んだ室内楽と異なり、これほど入り組んで弾きにくい曲は初めてでした。それまでは、ピアノは裏方に徹するものと思っていたのですが、その意識を覆した作品。これだけ音が書いてあるということは、ピアノももうちょっと雄弁になっていいのよね?と教えてくれた大事な曲のひとつです。ショスタコーヴィチは、上野通明さんとトッパンホールで弾きましたが、その後〈シュニトケ&ショスタコーヴィチ プロジェクト〉も毎回聴き、その神髄に触れるようにしてきましたので、成長したところをお聴かせしたいです。ドビュッシーは、モルクさんがフランスものをどう弾くのか未知数で、それがとても楽しみです。フランクは小さいころから、いつか弾きたいとずっと憧れていた曲でした。パリ音楽院で室内楽をちゃんと学ぶとなったときにも、まずフランクをやりたいと先生に申し出たほどです。念願のモルクさんとの演奏会、想い続けていれば夢は叶う、ということをお伝えできたら嬉しいです。
今回のプログラムは、私にとってどれも時間をかけて様々なチェリストと共演し、多くを学び、研鑽、経験を積んできた作品です。これまでの共演者、助言をくださったみなさまへの感謝を胸に、感性を最大限に研ぎ澄ませ、これまでの音楽人生の集大成として臨みたいと思います。ファンとしては、客席でじっくりモルク・サウンドを堪能したい気持ちもありますが、「やっぱり一緒に弾きたい!」と思うはずなので、この機会を存分に味わい、楽しみます。

島田さんには2020年1月のキラリふじみ公演(企画:トッパンホール)にもご出演いただきます。

キラリふじみも魅力的な音響のホールで、のびのび弾けるイメージがあります。今回は総勢8人と賑やかな出演者で、パリ留学時代の仲間もいますし、こちらも楽しみです。

キラリふじみ公演の詳細 http://www.kirari-fujimi.com/program/view/583

トルルス・モルク(チェロ)

2020/1/21(火) 19:00

島田彩乃(ピアノ)

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