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インタビューInterview

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愛弟子が語る、音楽家ライナー・クスマウルの素顔 トッパンホールプレスVol.106より

日下紗矢子 Sayako Kusaka

久保田 巧 Takumi Kubota

進行=
西巻正史(トッパンホール プログラミング・ディレクター)
取材・文=
トッパンホール

開館初期の2003年から、運営が軌道に乗りはじめた2007年にかけて主催公演に毎年出演し、あふれ出る音楽愛と人間を肯定する厳しくも寛容な存在感で、トッパンホールが今日に至る確かな指針を示してくれたライナー・クスマウル(1946.6.3 ~ 2017.3.27)。アバド時代のベルリン・フィルを支えた立役者であり、室内楽の達人にしてすぐれた教育者でもあった彼への、尽きない尊敬と感謝を込めたオマージュ公演を、この4月、2日間にわたって開催します。


西巻: ライナー・クスマウルが亡くなってもうすぐ3年。ともにライナーに師事されていて今回の企画実現には欠かせない縁深いおふたりと、今日は少し思い出話をしたいと思います。

久保田: 私はクスマウルの弟子なのかな。

西巻: ライナーはずっとそう言っていましたよ。出会いはいつでしたか?

久保田: 私がまだ20代に入ったばかりで、1980年ごろだったと思います。当時はウィーンで、シュナイダーハンに学んでいました。夏に、ヘルムート・ミュラー=ブリュールが指揮するアンサンブルに呼ばれてドイツの音楽祭に参加したときに、コンマスがクスマウルだったんです。リサイタルも聴いたのですが、まぁ、なんて上手な人なんでしょう!と驚きました。

西巻: ライナーは当時、30代ですね。

久保田: 32、3歳だったと思います。くりくりの髪型とがっちり四角い感じの体格はパールマンそっくりでした。2プルトの表がトーマス・ヘンゲルブロックで、私は3プルト。大きくて上手な人が前で2人弾いていて、本当に楽しかった。

西巻: ヘンゲルブロックもライナーの弟子ですね。

久保田: 音楽祭の期間中は、近くの病院の看護師寮に泊まって、朝から晩までみんな一緒の生活でした。それで、合間の時間にツィガーヌとイザイの3番を聴いて欲しいとお願いしたんです。たまたまコンクールの準備をしていた時で、シュナイダーハンのレパートリーではなかったので、アドバイスを受けたくて。レッスンしてもらったのはそれが唯一でしたが、こんな表現ができるのか、こんなに自由に表現をしてもいいのかという驚きで、私の音楽の転機になりました。

西巻: 1度だけだったんですね。

久保田: そう。でも、あいだがすごく開いてもずっと親しくしてくれました。いつだったか、10年近く会っていなかったのに、ケルンの街角でバッタリ出くわして。クスマウルがちょうど、ハンバーガーにかぶりつくところで目が合っちゃって(笑)。

日下: 先生、可愛らしい方でしたよね。

久保田: ニーって笑った顔がトトロにそっくりなので、ぬいぐるみをプレゼントしようと言っていたんだけど

西巻: 日下さんは、ぜひライナーに習いたかった。

日下: ドイツ留学を考えていたときに、先生のメンデルスゾーンのCD(*)を聴いたんです。本当に自然で音楽があふれ出ていて、ものすごく感動して。それで、西巻さんに先生に引き合わせていただきました。

西巻: ライナーのメンデルスゾーンは、こういう音楽だったんだ!と感じさせて実に上手かった。日下さんのメンデルスゾーン好きは、ライナーの影響もあるのかな。レッスンはどんな感じでしたか?

日下: 2006年から師事しましたが、私は当時まだドイツ語がほとんどしゃべれなくて、先生は英語をお話しにならなくて。

久保田: 英語は話したがりませんでしたね。

日下: なのでレッスンは、2人して身振り手振り。パントマイムみたいに(笑)。だけど本当に豊かな時間でした。シンフォニーや室内楽、博学で実にいろいろなことをご存じで、たくさんの比喩から音楽を教えてくださって。ヴァイオリンばかり勉強していたので、世界が広がりました。なかでも大きかったのは、効率的な指使いを教えてくださったことです。音楽は結構、指使いでできてしまうというか、弓と指の使い方で弾き手の考えがわかってしまうところがあります。本番で特別何もしなくても音楽が作れるような方法、アイディアを先生から学べたのは幸運でした。あと、曲は毎回違うものを持っていって、先生はアドバイスをくださっておしまい。あとは自分でやりなさい、ということなのですね。完成形をお聴きになることはありませんでした。

西巻: 厳しかったですか?

日下: そういう記憶はないです。

西巻: 日下さんは優秀だったのかな、田島くんには厳しかったらしいよ。

久保田: ヨーロッパの男性だから、女性には優しかったのかも。

西巻: 自信のない日には短めのスカートをはいていくとなんとなく和やかにレッスンが済む、みたいな話を聞いたことあったかな

日下: そのお話、早く聞いておけばよかった(笑)。

西巻: とにかく、あたたかくて大きな人でしたね。

久保田: 人にも音楽にも、包容力の大きさが抜きん出ていたと思います。なんでもできる、戦うべきところでは戦って圧倒もできる、でも基本的に自分を前に出さず、誰に対しても“君と僕”(“Sie”ではなく“du”)で呼ぶ関係を望んだ。人と音楽することを何より愛していて、アンサンブルでもレッスンでも、同じ目線で一緒に音楽の時間を楽しもう、という姿勢が彼の絶対的なスタンスでした。

日下: 先生、ピアノもとてもお上手で、レッスンで伴奏してくださると、私の出来はそっちのけで、ご自分がピアノを弾くのを楽しまれている気がしていました(笑)。だけど本当に、どんな曲でも演奏でも、包み込んでくださるような優しさが感じられましたよね。つねに見守られているようなあたたかさが、音楽からも人からもあふれていました。

西巻: 今回は、おふたりと同じくライナーを師と仰ぐメンケマイヤーを軸に、ライナーと生前、次の約束としていた曲を含めてプログラムを組み立てました。

久保田: 初めてご一緒する方ばかりですけど

日下: 15周年フェスティバルのときは、巧さんとすれ違いでしたものね。

西巻: 音楽に向き合うベースがライナーで共通していますから。

日下: 音楽の目指す方向は同じということですね。

久保田: ええ、楽しみですね。

西巻: 大好きなみなさんが集まるので、ライナーがきっと天国から聴きにきてくれるでしょうね。4月、楽しみにしています。

シュタイアーとの二重協奏曲。オケはコンチェルト・ケルン。

ニルス・メンケマイヤー(ヴィオラ)
モーツァルト・プロジェクト ~ライナー・クスマウルをしのんで~

2020/4/9(木) 19:00

2020/4/10(金) 19:00

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