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インタビューInterview

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谷 昂登の写真

「ぼくも人を感動させたい」
その想いが、ピアノを弾く原点
トッパンホールプレスVol.116より

谷 昂登(ピアノ) Akito Tani

写真=
藤本史昭
取材・文=
トッパンホール

少し時間が経ちましたが、日本音楽コンクール第1位、おめでとうございました。第3予選でのリストの《ロ短調ソナタ》は、音楽に肉薄していく姿勢が非常に素晴らしくて、まるで円熟の巨匠のコンサートを聴いているようでした。

ありがとうございます。自分としてはコンクールというよりも、そのときできる最大限をやりきることを目標にしていました。作品の持つ本質的な部分をしっかり捉えて、それをどうお客さまに発信できるか、曲の持つ力や背景を第一に考えて自分なりに表現したことが、あの演奏に繋がったと思います。

これはぜひ、さらに一段磨いたものをトッパンホールのお客さまに聴いていただきたいと、今回のコンサートをオファーしました。シューマンの《幻想曲》を組み合わせる素晴らしいアイディアを出してくださいましたが、この2曲を並べるのはとても大変でしょう?

そうですね。でも、作品の成り立ちを勉強したいという思いがあるのと、あとは、ベートーヴェンを勉強していてそこここにシューマンの気配を感じることがあって、シューマンやドイツもの全体への興味がだんだんと自分のなかで蓄積されてきていることがあります。それで今回、リストのソナタと関連づけて組み合わせるには《幻想曲》がいいと思いました。文学作品なども読み込みながら本番へ向けてよく研究して、シューマンの本質に迫った演奏ができるよう準備したいと思います。

どうアプローチなさるか非常に楽しみです。谷くんは最初に出会った中学2年のころから、やりたいこと、興味があることがハッキリと感じられていました。今度が3度目の出演になりますがトッパンホールにはどんな印象をお持ちですか?

最初は試演で、誰もいないホールで弾きましたが、当時は、地元の北九州から東京に出ること自体が壁のように感じられていたので、すごく緊張したのを覚えています。でも、最初からとても親しみを感じるホールでした。自分のやりたいこと、出したい音が素直に響いて、コンサートでは、客席からお客さまの共感がよく伝わってきます。ピアノも高音から低音まで多彩な音色のパレットがあって、自分の手やイメージとうまくマッチして、すごく弾きやすいです。2度目の〈ランチタイムコンサート〉で千葉百香さんと2台ピアノに挑戦したときは、ふたりのバランスをとって音楽をつくる作業がとても難しかったのですが、本当の意味での、音楽を一緒につくるという感覚を学びました。このときの経験がきっかけで室内楽にも意識が向くようになりましたし、オーケストラとの共演なども含めて、いまの自分の音楽に活きていると思います。

〈ランチタイムコンサート〉では2回とも、ロシア音楽を取り上げました(*1)。この秋からはモスクワで学ばれる予定ですね。ロシア音楽への関心のきっかけを教えてください。

地元の先生が、モスクワ音楽院で学んだ方だったんです。レッスン曲もロシアものが多かったし、あとは自分がいろいろなピアニストを聴くなかで、いいなと思った多くがロシア人でした。小学生の終わりごろには、自分はロシア音楽が合うのかなと感じていました。
ロシアの作曲家ではラフマニノフが大好きです。小学2~3年の時だったと思いますが、YouTubeでラフマニノフが自分で弾いているコンチェルトの3番を聴いて衝撃を受けました。それ以来いろいろな演奏家で3番を聴き比べては、同じ曲でも何通りも歌わせ方があり、それで感動の質が変わることも知りました。演奏家では、エミール・ギレリスやグリゴリー・ソコロフから入って、もっと古いロシア人ピアニストにも興味が広がり、ロシアのいろいろな流派を聴きました。ぼくはひとつきっかけがあると、そこから興味をつなげてどんどん調べるところがあって、気になったことはとことん追究します。いまは桐朋で学んでいますが、学校の授業でも、何をもって曲が構成されているのか、そのモチーフが課題になると、基礎から学ぶようにしています。何のためにモチーフがあって、それがどう使われると聴く人の心に届くのか。その仕組みみたいなものが知りたいし、探りたい。
モスクワに留学したら、ロシア音楽の背景に触れられる絶好の機会なので、とにかくたくさんコンサートに行って、いろいろな演奏、演奏家を聴きたいし、建物を見たり、文学作品もロシア語で読めるようになりたいと思っています。

ぐっと話がさかのぼりますが、谷くんはどうしてピアノを弾きはじめたのでしょう。

両親ともに音楽が好きで、子どもにピアノを弾かせたかったみたいです。ぼくは男3人兄弟の末っ子なのですが、物心ついたころにはふたりの兄がピアノを習っていました。それを真似ているうちに自然とはじめた感じです。小さいころは遊んでいる感覚のほうが大きかったかな。でも、親がいろいろな演奏を聴かせてくれるなかで、聴いて感動する経験を何度かするうちに、どうしたら人の心を動かす演奏ができるのかを考えるようになりました。ぼくも人を感動させたい、それがいちばんの原点になっていると思います。
兄ふたりとは今も仲がよくて、特に上の兄は音楽に熱心だったので、一緒にコンクールを受けたり、連弾したりもしていました。部屋に呼ばれては、ブラームスのシンフォニー1番(カール・ベーム指揮)を何十回、何百回と聴かされて、「この4楽章がいいんだよ!」って(笑)。下の兄はデザイン系に進んでいて絵を描く人で、その影響で絵に触れる機会も多いです。
絵と音楽には深い関係性があると感じていて、視覚か聴覚かという違いはあるけれど、どちらも記憶に残す方法には共通点があるような気がします。絵だといちばん見せたい色や目立つ色、音楽だと和音のハーモニーやメロディーなど、作品の構成に共通するものを見出せます。それで、曲のイメージを深めるために絵画展に行ったりもします。

最後に、谷くんが感じるピアノという楽器の魅力とは。

ピアノは88鍵あってどの楽器よりも音域が広く、そのなかに秘めている可能性はすごく大きい。ピアノ1台でどうやっていろいろな楽器の音色を出せるかを、常に探っています。ピアノの音は減衰しますが、それをどうやって歌わせるか、また逆にそれを利用することもある。本当に可能性は無限大だと思っていて、自分の想いや表現したいもの、自分にはピアノがいちばんあっていると感じています。

(2022年1月)

*12018年11月:ストラヴィンスキー《ペトルーシュカ》/2019年12月:チャイコフスキー《くるみ割り人形》(千葉百香さんとの2台ピアノ)

谷 昂登(ピアノ)

2022/4/27(水) 19:00

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