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インタビューInterview

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トーマス・ヘルの写真

呼応する変奏曲
ピアノの才人、3度目の伝説
トッパンホールプレスVol.118より

トーマス・ヘル(ピアノ) Thomas Hell

写真=
大窪道治
取材・文=
トッパンホール

コロナ禍で2度にわたり延期・中止となったヘルのリサイタル。2年以上を経て、ようやく実現します。プログラムは、ヤナーチェクのピアノ・ソナタがハイドン《アンダンテと変奏曲》へと替わり、後半の《ディアベリ変奏曲》と呼応する構成に変わりました。本記事は、ドイツ・マインツのヘル氏のご自宅で行ったインタビュー(2019年6月取材)の一部に、ハイドン作品についてのコメントを新たに加えてお届けします。


これまで、リゲティ《エチュード》全曲(2016年)、シューマン《クライスレリアーナ》&アイヴズ《コンコード・ソナタ》(18年)などの大曲を、ヨーロッパ音楽史の延長線上に位置づけながら、超絶的な演奏をされていましたが、今回はホールから十八番のベートーヴェン《ディアベリ》を提案、ご快諾いただきました。

いま仰ってくださったように、これらの作品は、時代に開きがあっても、ひとつの大きな流れのなかに位置づけられています。コンテンポラリーを弾いているという特別な意識はありませんね。作品に対する愛や理解は、それが1800年代に作られようと2000年代に作られようと関係ありませんし、自分のなかにその作品と近いものがあれば、この曲を「何としてでも表現したい!」と思うからです。《ディアベリ》は私の心に近いものを感じていて、昔からよく弾いていました。ハ長調の作品は他の曲とも組み合わせやすいですしね。《ディアベリ》とリゲティの共通点を挙げるとしたら、構築された“大きな山”を踏破したいという意欲に駆られる、という点でしょうか。

コンサートはハイドンの変奏曲から始まります。どのような意図で選曲されたのですか。

私はずっと、ハイドンとベートーヴェンの後期のこの2つの変奏曲を1つのコンサートの中で組み合わせて演奏したいと思っていました。ハイドンの変奏曲は、18世紀末に作曲され、デリケートなメランコリー、表情豊かな半音階を内包しながら最大級のドラマと悲劇性を追求していて、それは、来るべき19世紀を、とりわけその金字塔ともいえる《ディアベリ変奏曲》を予感させる作品です。今回は、この両作品でフレームを作り、中に2つの邦人作品、権代敦彦と矢代秋雄を挟んだプログラムにしました。

ではまず、権代敦彦さんの作品についてお聞かせください。

2004年頃から15回くらい日本に行っています。そこで、権代さんなど日本の作曲家と知り合い、日本の作品を知るきっかけになりました。《Diesen Kus der ganzen Welt》は、私の住んでいるマインツに本社があるショット・ミュージックの社長、ペーター・ハンザー=シュトレッカー氏の70歳の誕生日に捧げられた作品で、タイトルから分かるように、ベートーヴェンの《第九》とも関連があります。

前半の最後は、ヘルさんの思い入れの強い矢代秋雄さんのピアノ・ソナタです。

2年前に矢代さんのピアノ協奏曲を2回演奏させていただき、自分の心にとても近いものを感じました。このソナタは、一見とてもヨーロッパ風で、メシアンやバルトークの影響を感じるのですが、よく勉強してよく聴くと、深層はとても日本的です。私が日本を知るようになったことで感じる、日本のメンタリティやキャラクターが含まれていて、そこがとても魅惑的です。

矢代さんはベートーヴェン《ピアノ・ソナタ第30番》Op.109に影響を受けてピアノ・ソナタを作曲したそうです。ベートーヴェンとの類似性は感じていますか。

それは知らなかったので驚きです。実に緻密に構成して作曲されているところが、ベートーヴェンとの共通点と言えるのではないでしょうか。実は最近、この曲を弾くときは必ずベートーヴェンのOp.109を一緒に弾いていて、生徒にもOp.109と矢代作品をセットで与えています。ただの偶然とも思えませんね。

夏目漱石や三島由紀夫など、日本文学を深く愛されていますね。日本にいらっしゃる前からお好きだったのでしょうか。

映画は大好きで、たくさん観ました。小津安二郎とか。お互いに察し合う日本のメンタリティが、とても好きですね。もし実際に日本に住むとなったら、あまりに細かい気配りをしなくてはならないことに参ってしまうかもしれませんが(笑)。また日本の茶室のような、シンプルさの中にある「美」に、とても魅了されます。文学では大江健三郎や村上春樹をよく読んでいます。日本について話しだしたら止まりませんよ。

トッパンホールやお客さまの印象はどうですか。

トッパンホールの唯一無二なところは、演奏家のやりたいことを察知し、理解し、そこに価値を見出し、共感してくださるプロデューサーがいること。普通なら「そんな曲を弾かないで、ショパンやラフマニノフを弾いてください」と言われてしまうのに、なぜこれを弾くのか、何が大事なのかを分かって声をかけてくれます。それに音響も素晴らしいですね。ステージ上で自分がやりたいことに、瞬時に反応してくれるホールなので、自由に弾かせてもらっています。信じられないくらい集中して聴いてくださるお客さまにも感謝しています。アイヴズを最後まで集中して聴いてくださるなんて、有り難いことですし稀有なことです。毎回聴きに来てくださるお客さまがいるのも、素晴らしいことだと思います。今回のコンサートでの再会をとても楽しみにしています。

〈異才たちのピアニズム 8〉トーマス・ヘル(ピアノ)

2022/8/19(金) 19:00

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