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インタビューInterview

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毛利文香&原嶋 唯の写真

尽きせぬ音楽への好奇心──
心躍るひとときを、ご一緒に!

毛利文香(ヴァイオリン) Fumika Mohri

原嶋 唯(ピアノ) Yui Harashima

進行=
西巻正史(トッパンホール プログラミング・ディレクター)
写真=
藤本史昭
取材・文=
トッパンホール

主催公演に数多く出演し、ホールからのチャレンジングなリクエストにも果敢に挑み、期待に応えてくれる、毛利文香と原嶋 唯。初共演以来、心を通わせ、得難いパートナーとなったふたりが、この12月、デュオで登場します。本番を前に、出会いや留学生活の様子、公演への意気込みなど、たくさんのお話を聞きました。


おふたりとも、主催公演にたくさんご出演いただいていますが、なかなかお話を聞く機会がなく、今回が初インタビューになります。

毛利・原嶋: よろしくお願いします!

聴いている人を納得させる力が、文香ちゃんの音楽にはある(原嶋 唯)

まずは、おふたりの出会いからお聞かせください。

毛利: 知り合ったのは高校2~3年のころ、宮崎で開催されたセミナーに参加したとき。他に参加していた同級生と一緒にご飯を食べに行ったのが、仲良くなったきっかけだよね。

原嶋: そうそう。初めて一緒に弾いたのは、2015年の浜松(*1)かな。

毛利: ベートーヴェンの《クロイツェル》を弾いたんだよね。

初共演で、いきなり《クロイツェル》ですか!? すごいですね。その頃のお互いの印象はどうでしょう?

原嶋: 私、ぽやぽやだった(笑)。

毛利: いやいや(笑)。一緒にいて居心地がよくて、波長があう感じがします。音楽的にも目指しているものやいいなと思う感性が似ているので、こうしてずっと弾かせてもらえているのかな。

先生によるピアノ伴奏と違って、同級生が相手だと自由に意見を言いやすかったですか?

毛利の写真

毛利: そうですね。自分が何をしたいのか相手に伝えないとならないので、より深く考えるようになりました。逆にそれまでは、どんなことを考えて演奏していたんだってなりますけど(笑)。

原嶋: 桐朋では伴奏を頼まれることが多かったです。ヴィオラの田原綾子ちゃんとよく一緒に弾いていたので、その縁もあって文香ちゃんとも自然と演奏するようになりました。揺ぎない信念というか、聴いている人を納得させる力が文香ちゃんの音楽にはあるので、いつも勉強させてもらっています。

毛利: いや~、どうなんだろう(笑)。でも、音質は大事にしています。もちろん作品の解釈や創りかたも大切ですが、やっぱり“音”ですね。人の演奏を聴くときでも、まず音が入ってきます。いま、ケルン音楽大学でミハエラ・マーティン先生に習っていますが、師匠の影響もあってか、音へのこだわりがさらに強くなったように感じています。

最初に人の心をとらえるのは音ですからね。8月のトリオ・リズル公演以降、また一段と凛と澄んできたように感じています。そういえば留学先が変わられたんですね。クロンベルクアカデミー(*2)はどうでしたか?

毛利: ものすごいレベルの生徒が世界中から集まってきていて、みんな個性的で求める音楽をちゃんと持っている人が多かったです。マスタークラスなど、お互いに聴きあう機会もたくさんあったので、すごく刺激を受けました。アカデミーにくる先生やアーティストも超豪華で、レッスンはものすごく緊張しましたが、一緒に演奏すると相手の呼吸を間近で感じられて、言葉で教えてもらうよりも得るものが大きく、いい経験でした。アカデミー主催のコンサートも多く、一流アーティストとの出会いの場を広げてくれるので、そこから繋がっていく縁もありました。

たとえば、どんな演奏家ですか?

毛利: 一番印象に残っているのは、タベア・ツィンマーマン。モーツァルトのコンチェルタンテでご一緒したあと、ベートーヴェン・ハウスで彼女のシリーズ・コンサートに呼ばれて、シューベルトの八重奏を弾きました。そのときの管楽器は、マーラー・チェンバー・オーケストラ。ものすごい豪華なメンバーのなか、萎縮しちゃうこともあったんですけど、すごくフレンドリーに接してくださって、気持ちが楽になりました。

音楽するうえでは対等だ、ということですね。

毛利: クロンベルクアカデミー・フェスティバルでアンドラーシュ・シフとベートーヴェンのソナタを弾いたときも、私にしたらすごい大事件!で、緊張が演奏にあらわれていたのか、聴きにきていたタベアが、「共演相手のことなんて気にしなくていいのよ」って、声をかけてくださったんです。レッスンやリハーサルでは、音程やフレーズの合わせなど細かい方なんですけど、「本番は何も気にしないでいいのよ」と。おかげでその後は楽しんで弾くことができました。

原嶋さんのウィーン留学はどうでしたか?

原嶋: 私はコロナ禍だったことが大きく影響していて、本当ならもっとたくさんコンサートにも足を運びたかったんですけど

大変な時期でしたね。でもここ数年、充実されている印象を受けます。先日の東京文化会館のリサイタル(*3)では、一皮むけたような演奏で素晴らしかったです。夏にはスウェーデン国際デュオコンクールで優勝されて(*4)、改めておめでとうございます。

毛利: 私もリサイタル聴きに行きましたが、とてもステキだった。

原嶋の写真"

原嶋: ありがとうございます。最近、いろいろな人と密接に弾く機会が増えてきたので、その経験をソロでも活かせているように感じます。音楽に柔軟に向き合えるようになってきました。そういえば、留学の最後の期が終わるころ、文香ちゃんがウィーンに遊びに来てくれたことがあったよね。ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタを夜な夜な聴きまくっていて、ソナタ第10番を聴きながら寝落ちしたこともありました(笑)。そのときに、「いつかふたりで10番を弾きたいね」って。今回それが実現できて、とても嬉しいです。

ふたりとも10番を弾きたいって、ずっと言っていましたね。魅力はなんでしょう?

毛利: 一筋縄ではいかないところかな。自分で思い描いていた景色と違うものが見えてきたりもするので、弾けば弾くほど探求し甲斐がある曲だと思います。パートナーとの深い対話がより必要になってくるので、唯ちゃんとなら新たなアプローチができるんじゃないかと思っています。

その他の3曲との関係性はどうですか?

毛利: メインはフランクのヴァイオリン・ソナタに決めていました。イザイの結婚祝いとして書かれた曲なので、イザイを組み合わせたいと、6曲あるヴァイオリン・ソナタから、大聖堂のようなどっしりとしたイメージのある第1番をプログラムしました。演奏される機会は少ないですが、とてもいい作品です。ブロッホは、イザイのもとで勉強したユダヤ人作曲家。音源を聴いたとき、民族的な響きのある旋律だなと思っていたら、楽譜にラテン語でミサの歌詞が書いてありました。ブロッホは今回初めて挑戦するので、とても楽しみにしています。

原嶋: シマノフスキの《神話》みたいな、神秘的な作品を組み合わせたくて探していたら、文香ちゃんが「こんな曲を見つけた!」って、ブロッホを提案してくれたんです。神秘的なものと民族的なものが不思議に交じり合って凝縮されたような作品で、「いいねこの曲」となりました。これからリハーサルで合わせていくのが楽しみです。チラシにも“秘曲好き”って書かれているけど、見つけるのうまいよね。

毛利: え~、そうかな(笑)。

ピアニストって視野が広いというか、作品全体が見えている感じがする
ピアニストから得るインスピレーションは大きいですね(毛利文香)

トッパンホールで弾く面白さなど、ホールの印象はどうですか?

毛利: トッパンホールは響きがよく、弾いていてとても気持ちが良いし、楽しいです。事前に本番と同じようにホールでリハーサルをさせてもらえるのも嬉しいです。実際にホールでの響きを確かめながら、自分のなかに取り込んでいく作業は、すごく大切なことなんです。それと本番に向けてのプロセスをアーティストと一緒になって創りあげようという、スタッフのみなさんの熱意をすごく感じます。お客さまも熱心な方が多く、いい緊張感で本番に臨んでいます。

原嶋: ホールの規模もデュオにピッタリで、演奏者の意図が細部まで伝わるのも嬉しい。あまり響きすぎて細部が伝わりにくくなってしまうホールもあるなか、トッパンは最後列のお客さまにもちゃんと届きつつ、それが大きなスケール感となって伝わるので、とてもいいホールだなと、演奏しながらいつも思っています。リハーサルの時間もたっぷりとってくださるので、そのなかで“ホールの使い方”というのを勉強させてもらっています。公演を重ねるたびに、そのやり方が習得できてきたと感じているので、今回も、うまくホールの響きを利用しながら、お客さま一人ひとりに音楽を届けたいと思っています。

ピアニストからみて、トッパンホールのピアノはどうですか?

原嶋: ピアニストを助けてくれるピアノだと思います。出したいと思った音が、自分で思う以上に響いてくれる。もちろん、ホールの音響特性との相乗効果もあると思いますが、イメージした以上のことを叶えてくれるピアノだと思います。

嬉しいですね。8月に来日したトーマス・ヘルさんも同じことを言ってくださいました。では、ヴァイオリン、ピアノに限らず、好きまたはよく聴いていた演奏家はいますか?

毛利: う~ん、そうですねヴァイオリン好きな父の趣味でチョン・キョンファのCDが家にたくさんあり、小さいころによく聴いていました。ヒラリー・ハーンも、昔、リサイタルを聴きに行ったことがあって、隙のない完璧な演奏ですごかった。あとはピアノのリサイタルに行くのが好きです。自分が弾けないので、単純にすごいなと思って。演奏者によって音がまったく違って聴こえてくるのも面白いです。ヴァイオリニストは自分の楽器を持っているから違って聴こえるのは分かるけど、フェスティバルとかで聴いていると、ピアノは同じ会場で同じ楽器を弾いているのに、人によって違う音が出るんだなって。

原嶋: 私からしたらヴァイオリンのほうが分からないよ(笑)。

毛利: ピアニストって視野が広いというか、作品全体が見えている感じがします。アンドラーシュ・シフ、マルティン・ヘルムヒェン、キリル・ゲルシュタイン、エル=バシャと共演させていただきましたが、ヴァイオリニストとはまた違った角度から作品を見てくださるので、ピアニストから得るインスピレーションは大きいですね。

毛利・原嶋の写真

なるほど、面白い視点ですね。こうやってお話を聞いていると、おふたりの相性の良さがよく伝わってきます。プライベートでも一緒に出かけたりしますか?

原嶋: ふたりともよく食べるほうなので、一緒にご飯に行きます。イタリアのヴェネツィアを観光したこともあったね。すごい楽しかった。

毛利: たまたまフェニーチェ劇場で《蝶々夫人》が上演されていて、せっかくだし聴きに行こうと。でもラフな服装だったので、一度着替えるためにホテルに戻って。そしたら開演まで時間がない!って。ゆったりと時間が流れるような優雅な街のなか、ふたりで全力疾走しました(笑)。

原嶋: 走ったね~。私たちしか走っていなかった(笑)。

毛利: 汗だくで劇場に着くと、すでに序曲が始まっていて場内も暗くなっていて。パッと見たら、私たちの後ろの席に日本人家族がいて、ちょっと恥ずかしかったね。

この演奏会でどんなことをお客さまに伝えたいか、メッセージをお願いします。

毛利: 純粋にどの作品もいい曲だなと感じていただきたいし、何よりも楽しんで聴いてくだされば嬉しいです。自分が真っ直ぐに音楽と向き合って探求したものを唯ちゃんとぶつけ合い、最高の状態にまで仕上げた音楽を、本番でみなさまに届けたいと思います。

原嶋: 私も同じ思いです。作品を隅々まで探求し尽して、お互いに自分が表現したい音楽をつくって、それがいい相乗効果となって生まれた音楽をお聴きいただけるよう、しっかり準備していきたいと思います。

楽しみにしています。今後、トッパンホールでやってみたいことはありますか?

原嶋: ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ全曲(笑)。

毛利: イザイにも挑戦したいです。どっちも大変ですけど(笑)。

(2022年9月)

*1:「アクト・ニューアーティスト・シリーズ」@アクトシティ浜松

*2:フランクフルト(ドイツ)郊外のクロンベルクにある若い音楽家たちのための高等専門教育機関

*3:8月31日@東京文化会館 小ホール

*4:共演はヴァイオリンの小川恭子

毛利文香(ヴァイオリン)&原嶋 唯(ピアノ)

2022/12/5(月) 19:00

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