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インタビューInterview

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アレクサンドル・メルニコフの写真©大窪道治

閃きとセンスで浮かび上げる、師リヒテルの美学 トッパンホールプレスVol.127より

アレクサンドル・メルニコフ(ピアノ) Alexander Melnikov

文=
アレクサンドル・メルニコフ
まとめ=
トッパンホール

時に、ステレオタイプと呼ばれる固定観念の中にも、「妥当なステレオタイプ」が存在します。そのひとつと言えるのが、「ラフマニノフの音楽は、何よりもまずピアノに関係している」というもの。確かに、彼の交響曲やオーケストラ作品はいずれも傑作ですし、歌曲も素晴らしいものばかり。しかし、そうした傑作たちを耳にしたとき、わたしたちの脳は、どうしても鍵盤との繋がりを意識してしまいます。そして、それを拭い去ることは容易ではありません。ざっくばらんに申し上げて、ラフマニノフがオーケストラ作品を作曲しようというとき、わたしたちはその作品のどこかに、確かにピアノの響きを聴いてしまうのです。
そのうえで、今回最後に演奏する《ショパンの主題による変奏曲》 Op.22に注目してみましょう。この作品は、どちらかといえばラフマニノフのなかでは知名度が控えめな作品ですが(もちろん、そうでなくなることを願っています)、控えめに申し上げても、演奏が難しい曲と言えるでしょう。わたしは、この曲を学び、そしてその構造を理解するすべを探しているとき、この作品がシューマンの《交響的練習曲》と数えきれないほどの類似点を持っていることに気づき、とてもとても驚きました。いくつかの類似点は、もっぱら表面的なものですが、作品の構造そのものを貫いているようなものもあって、それらは曲の本質に直接的に影響を及ぼしています。こう断言するのは少し勇気がいるのですが、これだけの数の類似点を見出せるとなると、それを「偶然」と片付けるのは、少し難しいでしょう。
両作品を繋ぐ「握手」の最も素晴らしい例は、もしかすると、長大なフィナーレの前に置かれた最後の変奏かもしれません。どちらの作品においても、最後の変奏は異質な調を用いた美しいカノンであり、シューマンの場合には主調やその平行長調で書かれて「いない」唯一の変奏、ラフマニノフの場合には、彼にとっては「愛の宣誓」を体現している調である変ニ長調から、最も遠く隔たった調で書かれた変奏です。
これ以上、わたしから類似点についてお伝えするのは慎み、あとは聴き手のみなさんがどう発見、あるいは推測されるかに委ねますが、こうした類似性によって、《ショパンの主題による変奏曲》が、ラフマニノフの芸術的創造のなかでも独特な位置を占めると気づくのは、興味深いことです。そう、これは、ピアノ曲でありながらオーケストラ作品のように響かせることを試みたピアノ作品、と言えるでしょう。
今回のコンサートで演奏するそのほかの作品は、確かに、師スビャトスラフ・リヒテルへのオマージュといっても差し支えないでしょう。リヒテルによるベートーヴェンのソナタ Op.90の演奏は、心打つ清廉さが忘れがたいだけでなく、心をかき乱すような完全性を備えています。また、プロコフィエフの、カラフルでまるで万華鏡のような《束の間の幻影》の世界を演奏するときは、永遠に、リヒテルの美学の影響を受け続けることでしょう。

アレクサンドル・メルニコフ(ピアノ)

2024/3/13(水) 19:00

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