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インタビューInterview

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人生、愛を歌う

大村博美 Hiromi Omura

取材=
トッパンホール

今回のプログラムは、歌曲にオペラに、また歌われる内容や言語も大変バラエティ豊かに組まれています。選曲の意図や全体を貫くテーマについて、教えていただけますか?

確かに、内容も言語もさまざまなものを並べましたが、私にとってはプログラム全体を通して共通する要素があります。それは、どの歌も、深い深い心の奥底から湧き上がってくるような、どうしようもなく強く熱い想いを歌にしている、というところ。そして“人生”を歌っているという点です。
私にとって人生は愛です。大切な人たちへの愛情、そして、いつかその人たちと別れなければならない辛さや苦しさ。けれども、命ある限りはとにかく一生懸命生きなければならない。——生きていると色々な事があります。切ない思いを精一杯言葉にして、それにふさわしい情熱にあふれた素晴らしい音楽がつけられて、聴く人に深い感動を与えてくれる曲たちばかりです。これらの歌を歌う時、作曲家たちに心の中でいつも語りかけています。あなたもこういう思いを抱いて一生懸命生きたんですね、素晴らしい曲を残してくれてありがとう、と。

大村さんは、世界の名だたるオペラハウスで活躍を続けていらっしゃいます。ご多忙のなかリサイタル、とりわけ歌曲を聴かせていただく機会は、とても貴重です。今回、こうして歌曲を多く取り入れた理由や、オペラとは異なる「歌曲の魅力」を教えていただけますか?

オペラも歌曲も、どちらも音楽にのせて心を語るという点では同じだ、というのが私の持論です。一般的にオペラは劇的で、それに比べると歌曲は静的という印象があるのかも知れませんが、人の心を、言葉を大切に語るのが歌曲なのだから、その語りたいことが深く強いことであるならば、最も情熱的な歌の表現になったとしても少しもおかしくないはずです。
ちなみに、私はオペラを歌う時でも特に言葉を大切に、いつも語りかけるように歌いたい、語っている事(心)によって声の音色が変わるように、と常日頃から努力しています。ですから私にとっては歌曲もオペラも根っこのところは同じなのです。歌曲かオペラか、という視点ではなく、言葉と音楽に真実がこもっていて心をうつか、という視点で曲を選びました。

選曲にあたり、トッパンホールという空間や、ホールのお客さまが持つ雰囲気は何か影響していますか?

トッパンホールの、温かみのあるほっとする空間、お客様一人ひとりに語りかけるような気持ちになれる雰囲気が大好きです。今回のプログラムを組むにあたっては、トッパンホールで歌うのだから、私が今1番素直に、正直に語りたい事を語れる歌を選びました。

特に思い入れのある曲、何か個人的なエピソードが秘められた曲はありますか?

リストのペトラルカの3つのソネットの3曲は昔から大好きな曲で、実をいうと2006年に、トッパンホールをお借りして初めて自主リサイタルをした時にも歌った曲です。その時はフランス人のピアニストを招きましたが、今回はイタリアのマエストロがピアノを受け持って下さいます。イタリア語の素晴らしく感動的な歌詞を、イタリアのマエストロがどう感じとってどういう音楽にして下さるか、本当に楽しみなんです。
デュパルクのフィディレはフランス歌曲の中で数少ない私の大好きな曲です。デュパルクは自分に厳しい作曲家で、自分に満足する事がなく、大部分の自分の作品を破棄してしまったとの事ですが、この曲を1曲残しただけでも充分素晴らしい仕事をしましたよ、ありがとうございます!とお礼を言いたいくらい素晴らしい。命と愛にあふれて輝いている曲です。
シュトラウスの〈解き放たれて〉やジョルダーノの《アンドレア・シェニエ》などは、私が今、歌わないではいられない気持ちになる曲です。
個人的な事ですが、昨年、今年と続けて、家族のようだった大切な人たちが2人続けて天国に突然旅立ってしまいました。病気なのは知りながらも、きっとよくなってまたすぐに会えると思っている間に、あっという間に旅立ってしまい、献身的に看護なさっていた残されたご家族まで、まるで後を追うように突然の病気で亡くなってしまい。2人を家族のように思っていた私は、まだその喪失感から立ち直れずにいます。今回選んだ曲に、死、命、をテーマにしたものが多いのは、生きるという事、死というものに対して、今、私が胸をしめつけられるような思いを感じているからかもしれません。

ピアニストとしてご出演いただくヴェロネージさんとの出会い、これまでの共演エピソードや印象について教えてください。共演の聴きどころや、お客さまにご注目いただきたい点はありますか?

素晴らしい指揮者であるマエストロとの初共演は、2017年9月のラトヴィア国立歌劇場での《蝶々夫人》でした。生き生きとしたテンポ、舞台上の歌手・オーケストラとのコミュニケーション能力の高さなど、素晴らしい指揮ぶりに大変感銘を受けました。
その後も2018年にかけて3回、やはりラトヴィア国立歌劇場で《蝶々夫人》をご一緒し、私の蝶々夫人をたいへん褒めてくださって、ご自分が理事長をなさっているトッレ・デル・ラーゴ(イタリア)のプッチーニ・フェスティバルでの《蝶々夫人》に招いて下さいました。プッチーニ・フェスティバルで昨年、今年と2年続けて《蝶々夫人》を歌い、今年の指揮はマエストロ、ヴェロネージで、昨年のラトヴィア国立歌劇場以来の共演でした。公演当日に大嵐がきましたが、中止を決定するギリギリのタイミングで奇跡的に雷雨がぴたりとおさまり、1時間半遅れて無事開演、強風にもかかわらずお客さまが最後まで聴いてくださって、カーテンコールではスタンディングオベーションで迎えられました。忘れられない公演です。
マエストロとの今回の共演の聴きどころは、やはりイタリア人らしい自然な生き生きした流れのある音楽づくりだと思います。私の大好きな曲をマエストロがどんなピアノで一緒に歌って下さるか、とても楽しみです。

このリサイタルは、日本ではおもにオペラでの活躍が注目されてきた大村さんにとって、ひとつの大きなチャレンジという印象です。常に挑戦を続ける大村さんの、今後のビジョンや夢、めざすキャリアについて、お聞かせいただけますか?

往年の名歌手たちの、魂のこもった、素晴らしく心をうつ歌唱や彼らの演じるオペラのシーンに感動し、子供の頃から私は生きる勇気をもらってきました。素晴らしい歌には、人に生きていく勇気を与える力があります。ですから、自分が歌手になった今、そういう歌を歌える歌手になりたいのです。もっともっといい歌を歌えるよう常に、ますます自分を厳しく鍛えながら、日本はもちろん、世界の国々で私の歌を聴きたい、舞台を観たい、と呼んでくださるところには、これからも喜んで歌いに行き続けたいし、私の歌を聴いてみなさんが少しでも元気になってくれれば嬉しいのです。アルバムのこともよくお訊ねをいただいていて、そろそろそういうチャンスがあるといいな、とも考えています。

主催公演にご出演いただくのは今回が3回目ですが、クローズドや貸しホール公演でもトッパンホールにご出演いただいていて、ホールの空間については熟知していらっしゃると思います。改めて、トッパンホールの印象をお聞かせいただけますか。

初めてトッパンホールで歌ったのは、先ほどお話した2006年の初自主リサイタルの時でした。その後、感謝なことにホールご主催のコンサートやクローズド公演にも呼んでいただいて、長いおつきあいになりました。自然な柔らかい響きで、いつまでも歌っていたい気持ちになる空間です。そして、お客さまとご一緒に、音楽を感じながら演奏しているような、お客さまを身近に感じられるあたたかい雰囲気もトッパンホールの素晴らしいところですね。海外公演から日本に帰ってトッパンホールの舞台に上がると、なんだかホッとします。自然に“ただいま帰りました”という言葉がでるくらいです(笑)。

最後に、お客さまへメッセージをお願いします。

今回の舞台は、“生きていれば色々ある。それでも人生は美しい!(La vita e bella! / La vie est belle! / Life is beautiful!)というメッセージをこめて歌います。私の想いを込めた歌がみなさまの心に強く届きますよう、当日のお越しを心から楽しみにしています。トッパンホールでお会いしましょう!

(2019年9月)

大村博美(ソプラノ)&アルベルト・ヴェロネージ(ピアノ)

2019/12/4(水) 19:00

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