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インタビューInterview

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アレクサンドル・カントロフの写真©Sasha Gusov

音楽とは、演じ手と聞き手の
あいだをめぐるもの

アレクサンドル・カントロフ(ピアノ) Alexandre Kantorow

取材・文=
トッパンホール

2019年のチャイコフスキー国際コンクール優勝を足掛かりに、ソリストとして、また室内楽奏者としても、大きな飛躍を遂げているアレクサンドル・カントロフ。来日公演までいよいよ一ヶ月を切り、ついに日本での本格的な公演が実現するカントロフに、今回のプログラムに対する意気込みをメール・インタビューしました!


コロナ禍において、カントロフさんも、パリ近郊の雰囲気のある劇場など個性的な場所を使われて、積極的に配信もされていましたね。今回、幸いにもお客様を入れての公演が実現しますが、無観客配信等を経験されたいま、ライヴで演奏することや、お客様とのコミュニケーションについて、どのように考えていらっしゃいますか? コロナ以前と感じ方に何か変化はあったのでしょうか?

トッパンホールの皆さま、こんにちは!
コロナ禍で私たちは、音楽というものは聴衆なしでは成り立たないということを再確認したと思います。音楽を届ける人と受け取る人、その両方がいないと、音楽のサイクルは完成しません。1年近くにわたり観客を入れての演奏ができず、改めて聴き手の存在の大切さを認識しました。演奏に命を吹き込み、感情を託しても、それに呼応してくれる受け手がいなければ、何の意味もないのです。久しぶりに有観客で演奏ができた日のことを忘れられません。エビアンで200~300人ほどの聴衆の前で行ったコンサートでしたが、本当に夢のようでした。ようやくお客さまの前でピアノを弾くことができるという事実にものすごく緊張しましたし、そこにいた皆がその有難みを感じていたと思います。

今回のプログラムでは、冒頭、そして最後に、ブラームスを演奏されます。ブラームスという作曲家のどのようなところに魅力を感じていらっしゃいますか? また、聴きどころについても教えてください。

クラシック音楽の歴史において、いい意味で「中心」にいるという点でしょうか。古典主義に深く根ざし、ベートーヴェンの後継者として、わずかなモチーフから、壮大な楽曲を構築した作曲家です。細部に至るまで理にかなっていて、無駄が一切ありません。すべての意図が明確なのです。一方でブラームスはまた、非常に詩的な作曲家です。荘厳な音楽が、わずかなタッチで一瞬にしてこの上なく美しいものに変わってしまいます。このバランスが、ブラームスという作曲家の最大の魅力だと私は思います。
プログラムのしめくくりには、青年期のブラームスの作品を選びました。一般的に、深みと落ち着きがあり完成された音楽、と考えられているほかのブラームス作品とは異なり、とても奇抜で、リストのような野心も垣間見られます。シューマンの狂気が乗り移ったかのような音楽は、彼の人生においてこの時期だけに見られるもので、より一層この作品を特別なものにしていると思います。壮大なソナタ形式をとり、ピアノをオーケストラのように響かせようとしています。普段イメージするブラームスとは異なる一面をお聴きいただくのは、意味のあることだと考えました。

リストの〈ダンテを読んで〉もとても楽しみです。

この作品を演奏する上で面白いのは、ピアノを演奏する以上の何かがあることです。文学や絵画から着想を得ているので、作曲の背景をたどって様々なイメージを膨らませることができます。ダンテの『神曲』を取り巻く多岐にわたる要素――ヴィクトル・ユーゴーの詩集も含め――が、音楽を創り上げる上で大きな助けになります。様々なアイディアを取り入れることで、風変りで非人間的な、地獄の様な響きをつくりだすことができますし、その響きを作り出すには、やはりピアノという楽器が不可欠だと感じます。

トッパンホールは、日本有数の室内楽ホールです。今回はソロでのご出演ですが、ヨーロッパでは、数々のアーティストと室内楽で共演をされていると思います。カントロフさんにとって、室内楽の魅力、そしてソロで弾く魅力、それぞれどんなところだとお考えでしょうか?

室内楽は、私にとってとても大切なものです。クラシック音楽において、ピアニストというものはしばしば孤独だと感じます。他の楽器は通常複数で、少なくともピアノと一緒に演奏することが多いのですが、ピアニストは一人で演奏する機会も多いですからね。時には、仲間のサポートや力が欲しいと思うこともあります。信頼できる仲間と一緒に演奏していると、互いの音楽に反応し合い、色々なアイディアの中を飛び跳ね回っているような、心地よい感覚を覚えます。絆が生まれ、とても温かい気持ちになります。
一方で、ソロ・リサイタルは全く違います。自分自身で時間や響き、すべてを支配し、自分の物語、世界を創り出します。自分自身を深く表現するという意味では、ソロが最も適しているのかもしれません。コンサート全体を組み上げ、異なった種類のリアルな音を探していきます。自分が本当に届けたい音楽を、お客さんに聴いてもらうことができます。それと同時に、すべてが自分に懸かっているという重圧も感じます。両方のバランスですね。

カントロフさんの、心に響く演奏を耳にすると、歌心を大切にされているように感じます。ご自身では、どのようにお感じになりますか?

弾いている瞬間は何を考えているのでしょうね、わかりません。ステージに上がる直前は、出だしの数音を想像し、自分が聴衆に何を届けたいかを考え、そのイメージと自分を繋げるようにします。ステージに上がるときに纏っていたいムードや雰囲気に自分を持っていくために、音楽も聴きます。こうして、演奏冒頭から自分の出したい音を出し、持っていきたい方向に音楽を進めることができるように準備をします。
弾いている最中はある意味混沌としていて、無意識に近いですが、急に我に返って、「次のパッセージはこれだ、フレーズはこれだ、だからこう持っていかないと」といったように音楽がリアルになる瞬間もあります。とはいえ大半の時間は、ゆらゆらと浮かんでいるような、不思議な感覚に支配されています。身体が自然とイメージする音を作り出そうとしますし、意識しなければしないほど、心地よくこの不思議な流れに身を任せることができます。コンサートの最中の記憶がほとんどないこともしばしばありますよ。

日本でもとても注目を集めているカントロフさんですが、まだまだ私たちにとってはミステリアスな存在です! 普段、ピアノを離れたときにはどんなことをされていますか?

ツアーやコンサートに精力的に取り組んできて、私の人生において「音楽」の部分は順調です。他方、時間があるときは、私の人生の残りの部分、「プライベート」を大切にするようにしています。友達や家族など、大事な人達との関係が置き去りにならないように、気を配っています。
他には、読書が好きです。ユーゴーやドストエフスキーといった古典から、もっと新しい時代だとヘルマン・ヘッセなど、たくさん本を読みます。村上春樹も何冊か読みました。「ねじまき鳥クロニクル」は面白かったです。映画も見ますし、時間があるときは水泳もします。テニスも再開したいなと思っています。小さな頃から何年もテニスをやっていたのですが、最近は時間がなくて出来ていないので。
それから、日本語の勉強も始めたいですね。2年後くらいに、日本で数か月過ごせたらいいなと思っていて、その時に少しは話せないと、と思っています。皆さんのご期待に添えるように頑張ります。日本が大好きなので、日本に行くのをとても楽しみにしています。
日本の皆さんは、人生において「音楽」というものをとても大切にしていらっしゃると思います。世界中をみても、未だにレコードを買えるお店があちらこちらにあるというのは稀なことです。コンサートにいらっしゃる皆さんが、歴史的名演を期待し、その瞬間に立ち会うという意識を持って集中して聴いているのを感じます。緊張感のある静寂は、他に類をみないものです。
それでは、コンサートでお目にかかりましょう!

【アレクサンドル・カントロフおすすめ動画】

ARTE Concert (YouTube)

インタビュー冒頭で触れられている「パリ近郊の劇場からの配信」映像。今回の演奏曲目も一部お聴きいただけます。

BISrecordsVIDEO (YouTube)

〈エスポワール スペシャル 17〉アレクサンドル・カントロフ(ピアノ)

2021/11/24(水) 19:00

2021/11/25(木) 19:00

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