インタビューInterview

結成30周年おめでとうございます。メンバー交替なく30年というのは本当に凄いことですよね。結成のきっかけや継続の秘訣、各メンバーの個性と特徴についてお聞かせください。
サーシャとディルクは、カールスルーエ音楽大学で出会ってすぐに、一緒に室内楽をやりたいという強い思いで意気投合しました。でも、サーシャは弦楽四重奏を、ディルクはピアノ三重奏を志向していたので、二人の間をとってピアノ四重奏になりました。同じ頃、エリカもカールスルーエで学び始め、こうして4人が出会い、アンサンブルを結成しました。
これほど長く活動を共にしてこられたのは、夫婦に「なぜ一緒にいるのか」と改まって尋ねる必要がないのと同じで、音楽を愛しクァルテットを奏でることが、私たちにとってごく自然なことだったからです。むしろ、なぜ多くのアンサンブルが容易に解散してしまうのか、逆に問いたいくらいです。
私たち一人ひとりの個性を言葉で表現するのはとても難しいですが、みんな異なる素質は持ちつつ、共通する点もたくさんあります。それぞれが音楽と結びついている瞬間に見出すものは──エリカは、訪れるのを待ち焦がれ決して手放したくない「音楽の美の瞬間」に心を寄せています。サーシャは、音楽の複雑な構造とそこに宿る作曲家たちの「創造の天才性」に深い敬意を抱いています。コンスタンティンは、音楽と人との「対話」、そして楽譜の行間や人の心に向けられる「探究心」に魅力を感じています。ディルクは、二度と同じものは生まれない「演奏会の唯一性」と、そこに宿る「音楽のメッセージ性」に強く心を動かされます。
もっとも、4人の“キャラクター”を取り換えたとしても、またそれぞれのものになることでしょう!
主催公演への出演は今回で5回目となり、みなさんとの関係も深いものとなってきました。改めてTOPPANホールの印象、ここで演奏する面白さなどお聞かせください。
TOPPANホールが、世界でも屈指のコンサートホールのひとつであることは疑いようがありません。ホール運営に注がれている情熱と深い愛情、出演アーティストやプログラムの選定に込められた細やかな配慮、そして西巻ディレクターがプログラムやレパートリーに対して抱いておられる深い造詣と明確なビジョンに、心から敬服しています。TOPPANホールは、すべての音楽家にとって信頼できる友のような存在であり、再会のたびに喜びと期待で心が満たされます。さらに日本はどこのホールでもお客さまが素晴らしい──深い集中力と心の開かれた姿勢、そして私たち演奏家への敬意を感じます。そのなかで、TOPPANホール公演は、常に私たちの旅のハイライトになっています。
印象深いエピソードのひとつに、作曲家の細川俊夫氏との出会いがあります。TOPPANホールで初めてお会いした後、私たちのためにピアノ四重奏曲を作曲してくださいました。この《レテ(忘却)の水》は、彼が津波の被害が特に大きかった地域から移動してこられたばかりで、その衝撃がまだ色濃く心に残っていたことが作品にも反映されています。
そして2021年12月、パンデミックのさなか、ほぼ最後のヨーロッパからの乗客として私たちが日本に到着した際のTOPPANホールでのコンサートは、特に感慨深いものでした。「ブラボー」の掛け声の代わりにサインが掲げられた光景は、不思議でありながらもとても心に響きました。この素晴らしい人々との再会は、私たちにとって何ものにも代えがたいものです。たとえ遠く離れていても、ここは私たちの家なのです。
今回は、多彩なゲストと多様なプログラムで出演していただきます。楽しみにしていることはありますか?
ホールから提案されたアイデアに大いに喜び、演奏することを心から楽しみにしています。プログラムは多彩で、5公演ともハイライトとなるべき内容が盛り込まれています。最終日には、ドイツ・リューゲンで開催する私たちの音楽祭にお招きして以来、定期的に共演を重ねている、ヨーロッパで非常に有名なソプラノ歌手のアネッテとともに、オペレッタの世界に浸る特別な一夜をお届けします。彼女は、私たちに大きな刺激を与えてくれる存在であり、人としても心から信頼できる友人です。ぜひ楽しみに待っていてください。
最後に、私たちが愛してやまないTOPPANホールの記念すべき節目にお祝いを申し上げます。ありがとう、そしてこれからの25年に乾杯を― 私たちフォーレ四重奏団の55周年、ホールの50周年を共にまた祝えるその日を、心から楽しみにしています。
(2025年8月取材)
TOPPANホール25周年 室内楽フェスティバル
I 2025/10/2(木) 19:00
フォーレ四重奏団/日下紗矢子(ヴァイオリン)/
ニルス・メンケマイヤー(ヴィオラ)/石川 滋(コントラバス)
II 2025/10/4(土) 18:00
フォーレ四重奏団/日下紗矢子(ヴァイオリン)/
ニルス・メンケマイヤー(ヴィオラ)
III 2025/10/5(日) 18:00
アネッテ・ダッシュ(ソプラノ)/フォーレ四重奏団
IV 2025/10/7(火) 19:00
フォーレ四重奏団/日下紗矢子(ヴァイオリン)/
ニルス・メンケマイヤー(ヴィオラ)/笹沼 樹(チェロ)
V 2025/10/8(水) 19:00
アネッテ・ダッシュ(ソプラノ)/フォーレ四重奏団