インタビューInterview

人生の中心にある
《ゴルトベルク変奏曲》
TOPPAN HALL PRESS Vol.142より
本堂竣哉(ピアノ) Shunya Hondo
- 写真=
- 藤本史昭
- 取材・文=
- TOPPANホール
ベーゼンドルファーとの出会いは、たしか小学生の時。閉校した小学校を再活用した施設(*1)にベーゼンドルファーが置いてありました。初めて触れた時、「なんだこのピアノ!」ってすごい衝撃を受けました。以来ずっと虜になっています。だから今回お話をいただいたとき、真っ先に思い浮かんだのは、大好きなピアノで大好きな《ゴルトベルク》を弾けたら、どんなに幸せなことだろうって、もうそれだけでした。さっき少し弾かせてもらいましたが、ピアノが音楽をどんどん引き出してくれる感じがして、すごく楽しかった。きっと本番はもっといい時間を過ごせるんじゃないかと、いまからワクワクしています。
J.S.バッハは無理に感情を押し付けてこないニュートラルなところ、自分の感情と一番自然に繋がれる部分に、幼少期からずっと惹かれています。初めて《ゴルトベルク》に触れたのは、両親が持っていたCD『クラシック名曲選』。曲目リストに「ゴルトベルク変奏曲より〈アリア〉」と書いてあって、“より”ってどういう意味だろうと興味を持ったのがきっかけでした。〈アリア〉以外も聴いてみたいと思い、CDショップに探しに行って、たまたま手に取ったのがグレン・グールドの1955年盤でした。そのテンポの速さに驚きつつも、彼の演奏に魂と繋がるようなものを感じて、すっかりハマってしまいました。その後購入した1981年盤は逆に51分とゆっくりめで、学校のマラソン大会での脳内BGMにちょうどいい。だいたい10km 60分くらいでゴールするから、どこを繰り返してタイミングをあわせようかなって(笑)。
グールドはこの2枚の録音を通して《ゴルトベルク》の完成形を突き詰めようとしていたのではないかと思っています。僕もこれからの人生の節目には自然と《ゴルトベルク》に向き合っていくことになると感じています。けれどグールド2号になっても仕方がないので、自身の現在地点で得られた自由で新たな視点を音楽に昇華できたらと思っています。
今回のコンサートでその手助けをしてくれるのが、ベーゼンドルファーです。先ほどピアノの前に座った瞬間の安心感といったら…。弾き手次第でどんな音楽でもつくれる懐の深さと、薪ストーブのようなあたたかさを感じました。日比谷のベヒシュタインで弾いた1912年製のピアノもそうですが、楽器のほうが音楽を知っているので、ピアノから新たなイマジネーションを得ることも多く、楽器と会話をしながら純粋に音楽と向き合っていきたいです。

話が少し戻りますが、僕はコンプリート欲が強いので、良いと思ったらそのすべてを知りたくなっちゃうんです。だからグールドは、《パルティータ第1番、第2番》《イギリス組曲第2番》《フランス組曲第2番、第6番》《イタリア協奏曲》と聴きまくっていました。そうしたらグールドの姿を実際に感じるようにもなって、ドライブ中に車窓からみえる草原のなか、《パルティータ第1番》の〈コレンテ〉を弾いているのが見えたこともありましたし、彼から電話がかかってくる夢を見たこともあります。彼のドキュメンタリー番組を見ては、将来ピアニストとグールド研究家になるのと、どっちが幸せかなんて考えたこともあったくらいです。グールドの呪縛から逃れるまでに10年以上はかかりました(笑)。
その呪縛から解放してくださったのが、小林道夫先生です。野島稔・よこすかピアノコンクールの優勝記念コンサート(*2)で《ゴルトベルク》を演奏したんですが、その前日に偶然にも同じホールで小林先生のオール・モーツァルト・コンサートがあって。「僕も明日、ここで《ゴルトベルク》を弾くんです」ってご挨拶したのが、はじめましてです。少しアドバイスもいただいて、翌日さっそく実践してみたりして。連絡先も交換したんですが、さすがに自分からは連絡できなくて、でもある日、「小林道夫です。今度東京に出る用事があるので、食事でもどうですか?」って電話をくださって。そこからレッスン含め交流が始まり、楽譜の読み方や音楽の組み立て方など、いろんなことを学ばせていただいています。そういえば、先生のお宅にも古いベーゼンドルファーがあって、それもすごく好きな楽器のひとつですね。

これまでの《ゴルトベルク》のコンサートでは80分通して演奏してきましたが、今回は15曲ずつで休憩を挟もうと考えています。J.S.バッハだからといって気を張らずに、彼が創り出した完成されたひとつの宇宙をありのまま、お客さまと享受できたら嬉しいですね。《ゴルトベルク》はものすごく数学的に構成されているんですが、そういう解説的なことは僕に任せて、ただ純粋に音楽から栄養をもらって人生の糧にしていただけたら。良いコンサートになるよう頑張ります!
(2026年5月取材)
*1:あけぼのアート&コミュニティーセンター(札幌市)
*2:2022年9月5日@ふきのとうホール(札幌市)
本堂竣哉(ピアノ)×ベーゼンドルファー Model 250
2026/7/23(木) 19:00
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