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インタビューInterview

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2023/4/25公演のチラシ画像

究極の“弦楽四重奏”への挑戦

周防亮介(ヴァイオリン) Ryosuke Suho

猶井悠樹(ヴァイオリン) Yuki Naoi

柳瀬省太(ヴィオラ) Shota Yanase

笹沼 樹(チェロ) Tatsuki Sasanuma

取材・進行:
西巻正史(トッパンホール プログラミング・ディレクター)
まとめ:
トッパンホール

西巻: 今回の公演は、2022年のニューイヤーコンサートがきっかけで生まれました。このときの、シューベルトの弦楽五重奏曲 D956をつくり上げた手応えが得も言われぬもので、念願だった弦楽四重奏を実現するのに「ついに機は熟した!」と思ったんです。
“弦楽四重奏の鉱脈”は、怖ろしいほどに奥が深く“究極の室内楽”とも呼べるほど。常設団体以外は手を出せないというのは、あまりにも惜しい。一方で21世紀の現代、こと日本では、常設の弦楽四重奏団を組んで活動するのは環境的に難しい。そうすると、日本の弦楽器奏者の大半はこの宝の山の鉱脈に深く分け入ることができないことになる。それは、演奏家のみならず我々コンサートホールにとっても非常な痛手です。年頭の五重奏を聴きながら、いよいよそんな壁に挑戦しようと決心がつき、メンバーもプログラムも僕のイメージでくみ上げて、みなさまにご提案させていただきました。
本番はまだ数か月先ですが、この3日間、毎日6時間前後集中して合わせてみていかがでしたか?

柳瀬: クァルテットって、すごく難しい。違う編成のアンサンブルでは相性がよくても、クァルテットでは上手くいかないということが多々あります。でも、今回はあまり心配していません。まず、リハの時間をたっぷり取ること、リハを一貫してホールでするのが、なんと言っても素晴らしい。みんな多忙だし、3、4日リハして本番というのが寄せ集めの一般的スタイルだと思いますが、今回は、コンセプト自体が“クァルテットを探究する”というもので、時間がちゃんとあるなかで、遠慮せずに意見を言い合えます。メンバーも自分を持っている人ばかりで、それぞれの個性がどう活かされていくのか、最後どこに着地するのか、楽しみでしかありません。

笹沼: 今回のクァルテットは4か月も前からスタートして、お互い思いをぶつけながら音楽を詰めていける、まさにもってこいのカタチです。この3日間で、雰囲気や目指す方向性が早くも見えはじめている気がします。周防さんは1歳年下ですけど、猶井さんは先輩、柳瀬さんは大先輩。年代が離れている良さ、経験値やフィールドが違う良さも感じています。4人がアイディアを持ち寄ることで、発想が拡がる面白さがある。とてもいい空気感で、肩肘張らずに準備ができると安心しています。

周防: シューベルトの五重奏のときも、ずっとホールで練習させていただきました。そのときも柳瀬さん、笹沼さんがご一緒で、みなさんがアイディアを出して引っ張ってくださって。音楽的にものすごく充実した演奏ができたので、また弾きたいな、と思っていたときに、今回のお話をいただきました。もともと室内楽の経験が少ないなか、今回はクァルテットということで音楽的にもっと大変だと思いますが、みなさんの足を引っ張らないよう4月に向けて準備したいなと、リハーサルをしているなかで、やる気のスイッチが入りました。

リハーサルの写真1

西巻: 他の室内楽ジャンルと較べて、弦楽四重奏は極度に難しいと言われますが、何が、どこが難しいのか……演奏家の口からはなかなか語られないので、ぜひそこをお話しください。

柳瀬: まず、難しい!と思って取り組んでいますよね(笑)。作曲家にしても、そんな気がします。あのモーツァルトでさえ、クァルテットは2年もかけて作曲していて、ハイドンに献呈するなどすごく気合いが伝わってくる。多くの作曲家が、いちばん大事と位置づけている印象もあります。演奏者としては、それに応えざるを得ない。ちゃんと勉強してちゃんと理解しないと弾けないのが、弦楽四重奏。しかも回数を重ね、やればやるほど深みにはまる。本番での結果もとても大切で、素晴らしい演奏をしなければ、という責任を感じさせられるジャンルでもあります。

笹沼: 作曲家人生の、さまざまなフェーズで作られている印象も受けるジャンルですよね。シンフォニーに辿り着くまでの習作的な意味合いを持つ曲もあるし、作曲技法が成熟してきた後期などに、作曲家がその先を求めていろいろなものを凝縮して込めているような例もある。あと、他の編成に比べて、メンバーが一体となって音楽をつくっていくのに「4」というのはバランスをとるのがとても難しいと個人的には感じています。例えばピアノ・トリオだと、「1対2」になったり「2対1」になったり3人で1つになったりしながら音楽の方向をつくっていけますが、「4人」で音楽の内容や技術的なことを共有して、納得しながら突き詰めていくのはすごく難しい。「4人」というバランスは一筋縄ではいかない形なのではないかと、僕はいま感じています。でも一方で、4人が完全に同じ方向を向いているとわかる、その響きを感じちゃったりすると「この瞬間のためだったんだ!」と、それまでの苦しい練習を忘れるくらいの満足感、響きへの感謝みたいなものに満たされます。それが醍醐味で、みんな弦楽四重奏の沼にはまっていくのかな、と思いますね。

柳瀬: 本番へ向けての過程で、時間をかけてつくってもつくっても、いろいろなことが湧き上がってきてさらに迷っちゃうし、いろんなことが見えてくるのが、クァルテット。ちょっと集まって数日練習して本番というスタイルでは、決して見えない世界があるんですよね。「この面白さや喜び」は、突き詰めないと味わえない。これを知らない人はかわいそうだ、と思うくらいの特別な満足感があります。終わりがないし、これほどやったのに上手くいかない、ということもよくある。でもむしろ、それがやりがいなんですね。

笹沼: そこに辿り着くまでの紆余曲折を知ってからオーケストラ曲やコンチェルトを弾くと、頭の柔軟度が増し、開けてくる世界があります。トッパンホールのお客さまはそういうところを魅力的に思ってくださると思うので、弾いている我々もすごく楽しいし、だからこそお客さまと共有したい。でも、ここから先、練習は更に苦しいものになると思う。辛い瞬間も何度もあるのかなと思います。

柳瀬: でも今回は、世代が離れてるから大丈夫だと思う。同世代でやるとぶつかったときにぶつかったままになる。それはそれで、またそこの苦しみを越えた人だけの喜びもあるけどね。

西巻: 経験の差こそあれ、クァルテット経験豊富な3人と、まっさらなもう1人(周防さん)という構成はメンバー選定のうえでとてもこだわったことでした。でも、年齢の差までは考慮していなかったな(笑)。

リハーサルの写真2"

猶井: ホールで完全にリハーサルができるのはまさに理想で、クァルテットでそれができるなんて、世界中にもないのではと思うくらい、貴重なことです。余韻も含めて音楽づくりできるのは、内容に大きく影響してくると思います。

笹沼: 最初から、本番と同じ舞台でリハするということでしか出せない音楽性があると思います。それぞれが何を考えているとか、どこに重点を置いているかなど、バックステージでの会話などから知る瞬間も結構ある。それが楽しいし、そういう“創造する環境”がすべて整っているところがトッパンホールだと思っています。

西巻: そこは、トッパンホール主催公演を通じての大きなこだわりです。

猶井: 3日間を終えてみて、みなさんそれぞれ、本当に素敵なキャラクターだと感じています。柳瀬さんは安心感があり、いろいろなアイディアだけでなく、経験に基づく発言をしてくれる。笹沼くんは「音楽をこう運びたい」というのがすごく伝わってくる。周防さんは同じヴァイオリニストですが、N響に来てめちゃくちゃ素晴らしいチャイコンを弾いてくれたりしているのに、ここでは時に2ndを弾いてくれて、その2ndからものすごい音が出てくる。もう楽しみしかないですよ、ぼくは。

リハーサルの写真3

西巻: 今回のプログラムは冒頭にお話した背景から、まずシューベルトの最後の弦楽四重奏曲をメインに置いて組み立てました。D887は、日本では取り上げられる機会も少ないし、ましていい演奏で弾かれることなんて滅多にない。よく演奏される弦楽五重奏曲と同じくらい価値のある傑作なのに残念で、ニューイヤーでの発展形としてぜひ舞台にかけたかったんです。そして、新たなクァルテットの結成公演ならハイドンから始めるところ、今回はそうではないので、D887の背後に存在するベートーヴェン最初の弦楽四重奏曲を組み合わせました。ベートーヴェンの最初(これも革新的な曲ですが)とシューベルトの最後の到達点を並べることで見えてくる世界をみんなで見たいと思ったし、そうなるとシューベルトの先にひらけ来る作品として、ウェーベルンの2つの世界を加えたくなりました。

猶井: ベートーヴェンのOp.18-1って、本当は最初に作曲された曲じゃないんですよね。ただ、あれを1番にしたのはとてもよくわかる。最初のクァルテットにしては出来過ぎた構成で、弾き応えも聴き応えもすごくある。第2楽章は「ロミオとジュリエット」が基になっていますが、すでにすごい完成度で恐ろしく感じるほどです。シューベルトの大曲と肩を並べるくらいの作品を、初期のベートーヴェンがすでに書いていたという、この驚き。シューベルトの15番(D887)は本当、いい曲なのにいい演奏に出会ったことがなくて、自分ならどうするだろう、どうあの曲を表現したらいいのかと。昨日もお昼を食べながら話しましたが、《第九》のメロディの幅の少なさに似ている、第2主題がピアニッシモというのも異常、昨日の合わせのときに《グレート》と似ているという話も出ました。もともとシューベルトの室内楽って家族と弾くために書かれていて、弾き手がどれだけ楽しめるかが大事なのかなと思いますが、この15番は特別で、それまでのクァルテットと一線を画している。何か心の内に秘めていた思いを強烈に出していて、その出し方が一筋縄ではない。スコアを勉強していても、頭が疲れて爆発しそうでした。そのくらいの曲を、僕ら4人がどう感じてどう演奏するか本来なら、常設のクァルテットがキャリアの最後の最後の方で取り組む曲を、初めての4人で演奏するというアイディアも、そこにウェーベルンの短い2曲が組み合わさっているのもとても面白いです。

笹沼: 今回のウェーベルンの2曲は、作曲年が10年も離れていないけれど、あれだけ違うものが書けるんですね。

周防: 2曲とも全然顔つきが違う。それぞれの曲の雰囲気やキャラクターがまた、とても興味深いです。

柳瀬: バガテルは、ものすごく美しい。ウェーベルンという人の感性があふれていて、それまでとは全然違うものをつくりたかったんだと思わせます。構造も含めた完成度も高い。どちらも素晴らしく個性的でいい曲ですよ。

西巻: 明らかにスタイルの違うこの2曲では、周防さんと猶井さんは入れ替わりで弾いていただくことにしました。お客さまにも違いが伝わりやすいと思いますしね。
今回は、ベートーヴェン、シューベルト、ウェーベルンと、ウィーンも大きなテーマに置きました。当時は圧倒的な音楽の首都だった街で、彼らはそこで活躍した先駆者という大きな壁に立ち向かうなかで、道を拓いていった。そうした環境が新しいものを生むことに繋がっていると思いますし、今回のプログラムのもう一つの切り口として、クァルテットの転換点を意識していた作品を集めています。それまでの延長ではない世界に踏み出す、という決意を秘めて作曲された曲ばかりです。

猶井: オーケストラだと、指揮者が第1楽章から第4楽章まですべてのフォルムを1人で決める。でも弦楽四重奏は4人それぞれの意見があり、意見をぶつけて音楽をつくる。若いころのぼくは実は、それに違和感を持っていて、昔ながらの、第1ヴァイオリン奏者の名前がついているクァルテットのように、その人が「この曲はこういうコンセプトでやりましょう」と、そういう音楽づくりのほうが、聴き手としては、やりたいことが鮮明に伝わってきて好きでした。でも今回は、違う。これだけ多様な経験を持つ仲間と、4人で1つのフォルムを探すことに情熱を感じています。自分にとって、新たな、大きなチャレンジです。

西巻: 今後の変化、深化がとても楽しみです。みなさん、公演当日まで一緒に探求していきましょう。今日はお疲れのところ、興味深いお話の数々、ありがとうございました。

(2022年12月21日/リハーサル後に取材)

トッパンホール アンサンブル Vol.11
―ウィーンの街に響いた弦楽四重奏曲

2023/4/25(火) 19:00

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