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インタビューInterview

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Trio Rizzleの写真

信頼する仲間とともに
弦楽トリオの地平を拓く冒険へ
トッパンホールプレスVol.133より

Trio Rizzle

毛利文香(ヴァイオリン) Fumika Mohri

田原綾子(ヴィオラ) Ayako Tahara

笹沼 樹(チェロ) Tatsuki Sasanuma

写真=
大窪道治
取材・文=
トッパンホール

結成のきっかけになった〈ランチタイムコンサート〉(2020年8月)から4年、名前を冠した第1回公演(2021年6月)からも、早や3年半経ちました。毎公演、非常に充実したリハーサルを経て本番に臨み、弦楽トリオの新たな地平を拓いている印象のTrio Rizzleです。

笹沼: 毛利さん、田原さんとは同い年で同じ桐朋学園出身。長年の室内楽仲間ですし、いろいろな編成でずっと一緒に弾いてきました。ですのでトリオも最初から自然に入れましたが、3人だけの弦楽三重奏では個々が担うもの、音楽づくりの過程がほかの編成とだいぶ異なっていて、“常にお互いを聴き合う”状態はTrio Rizzleで初めて経験しましたし、ふたりの新たな面にも触れながら、回を重ねて、非常にインテンシブなグループになってきたと思います。3人だけなので、アイディアに加えて、和声の音程の感覚をすり合わせるような地道な作業がとても大切で、トリオをはじめて以降はそういった事を強く意識するようになりました。

田原: ふたりは、プライベートも含めて気兼ねなく話せる友人でもあるので、自然なコミュニケーションがとれて、演奏にも気心知れた気配がにじむのがTrio Rizzleの魅力だと思います。ずっと一緒にやってきてトリオを組むのも自然に思えたし、ランチタイムのベートーヴェンにはじまり、第1回では王道の大曲、2回目はフランスものや知る人ぞ知る秘曲、前回はロシアの名手・グリンゴルツさんと共演もさせていただいて、Rizzleの活動は、毎回冒険に出かけるようで本当に楽しいです。

毛利: 弦楽三重奏は、それぞれの楽器の独立性を大事にしながら全体を調和させていく難しさがありますが、だからこそ、みんなが日ごろ、ソロや室内楽などいろいろ活動していることがいい形で表れてくるのだと思います。作品の数は少ないかも知れませんが、魅力的な曲、やりたいものはいろいろあって、信頼するふたりとどこまで歩んで行けるか、この先もとても楽しみです。

弦楽四重奏や、同じトリオでもピアノ・トリオとはどう違いますか?

毛利: ピアノ・トリオは、ソリスト3人が集まってその場限りで演奏する機会も多いですが、弦楽三重奏はより緻密さが求められる点で弦楽四重奏に近い気がします。一方で、クァルテットより個々の独立性が高く、内声がヴィオラ一人という難しさもあり、それが魅力とも言えますね。

笹沼: ピアノ・トリオは、作曲家によって比重の違いはあれど、どうしたって柱はピアノです。和声とベース(土台)をピアノがつくってイニシアチブを取る。弦楽四重奏の場合は、その役割を低弦が担います。その点、弦楽三重奏はカメレオンというか、ヴィオラがずっとベースを握っているかと思えば、ヴァイオリンが低い音に降りてくることもあり、逆にチェロが高い音を担当することもあって、それぞれの楽器がカバーする音域が広い。土台部分をかわるがわる担っていくのが、難しさであり魅力にも感じます。ピアノ・トリオや弦楽四重奏とは、その土台づくりの部分が大きく違うと思う。

田原: ピアノが入るとピアノの音程になってしまうけれど、弦楽器だけで音程をつくっていく難しさが面白さでもありますね。それを3人だけでやるのが、大変だけどやりがいです。

Trio Rizzleの写真2Trio Rizzle meets イリア・グリンゴルツ(2024/2/16)

前回は、グリンゴルツとの共演で弦楽四重奏も聴かせていただきました。

毛利: グリンゴルツさんはすごく音の集中力のある音楽家で、音楽のイメージもはっきりお持ちで、なにせ求心力が凄かった。3人ともグッと引き寄せられました。

笹沼さんは音楽的影響だけでなく、譜面台をお揃いにされましたね(笑)。

笹沼: ミュートもです。借りてました(笑)。毛利さん、田原さんは面識があったけど、僕は初めましてで謎めいた印象から入りました。最近の“届きやすい”演奏と違って、お客さまに耳を傾けさせる力のある、本物の音楽家ですよね。Trio Rizzleとしての音ができてきた絶好のタイミングで共演させていただき、自分のなかに新しい引き出しがたくさんできました。彼と過ごしたのはリハと本番のわずか数日でしたが、いまも一緒に演奏したときの感覚を鮮烈に覚えています。

田原: ヴェルビエや武生の音楽祭で彼の演奏を聴いて、以前から、なんて音楽がある人なんだろうと思っていました。一緒に弾くと、最初の呼吸で音を出した瞬間に、その曲の本質が理屈を超えて伝わってくるんです。音楽家ってこういう人のことを言うんだな、と感じ入りました。本当にいい刺激になりました。

今度の公演ではゴルトベルクに挑戦されます。Rizzleバージョンは、どんな感じになりそうですか?

毛利: 実は、3人でこれまでに2度、シトコヴェツキ編を弾いています(*)。そのときは演奏譜しか見なかったのですが、3月へ向けて9月にリハーサルしたとき、初めてピアノ譜と照らし合わせてみたら意外な発見が多くあり、シトコヴェツキはやはり凄いなと感じるところがあれば、なんでこういうパート分けをしたんだろう、どうしてここの音は省いたのかな、という疑問も出てきました。ヴァイオリンが完全に休みのバリエーションでは、チェロが相当ハイポジションまでいかなきゃいけなくて、大変そうにしか聴こえない。そこはヴァイオリンのほうが音楽的に美しいだろうとそれを試したり、ピアノ譜を見ながら変えたり直したりしていました。

田原: 無理のあるパートを無理のない楽器にチェンジしてみたので、シトコヴェツキ編が一生弾けなくなるかもと思ったりしますが(笑)、聴いているかたが“弾きづらそう”“難しそう”“大変そう”と感じないようにやってみたいと思っています。

笹沼: Rizzleのオリジナルバージョンをつくるのが目的ではなくて、オリジナル譜が体に入った状態で演奏したいと思ったんです。シトコヴェツキ自身、そういう状態から意訳というか、想像力を膨らませて編曲していますし、それをRizzleとしてどう咀嚼してどう表現に結びつけていくかは、これから本格的に試行錯誤します。最終的には、自分たちの響きを見つけ、それを説得力ある弦楽三重奏のかたちに落とし込みたい。そういう試みにしたいと思っています。

シェーンベルクとの組み合わせもとてもいいですね。

笹沼: シェーンベルクは、ゴルトベルクとの対比が意味あるものとして届くように弾きたいと思っています。五臓六腑に染みわたるじゃないけど、それがわかるように。

Trio Rizzle、意気盛んです。

田原: 今後は、レパートリーを増やしたり、Rizzleの名前を知ってもらう意味で、新曲の委嘱もできたらいいなと思います。

笹沼: 僕らが核となるような室内楽の編成もやってみたいですね。常設の弦楽三重奏とピアニストがピアノ・クァルテットをやったらどういう響きがするんだろう。委嘱するなら、複数の作曲家に小品を書いてもらって、ひとつの組曲に仕上がるようなものがいいかな。

毛利: 私は、グリンゴルツさんとの共演にとても刺激を受けたので、巨匠というより、例えばひと回り上くらいの、自分たちに年齢が近くて引き出しを豊富にもっているアーティストと、またご一緒できたらと思います。現代作品にもチャレンジしたいですし、あとは純粋にベートーヴェンのOp.3がまだなので、それを。

先も見据えつつ、年末のリハーサルでお会いしましょう。

(2024年11月取材)

*2021年1月23日@汐留ホール/2023年12月21日@山口クリエイティブ・スペース赤れんが

Trio Rizzle Vol.4

2025/3/10(月) 19:00

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