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インタビューInterview

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エベーヌ弦楽四重奏団の写真©Julien Mignot

新メンバー岡本侑也、
エベーヌQを語る

岡本侑也(エベーヌ弦楽四重奏団) Yuya Okamoto

取材・文=
トッパンホール

昨年11月、ブラジルツアーから帰ってきたばかりの岡本侑也に、エベーヌ弦楽四重奏団加入後の心境や音楽的な変化、3月の公演についてリモート・インタビューしました。WEB版では、トッパンホールプレスVol.133のインタビュー記事に、ベルチャ・クァルテットの印象や今回のプログラムの話を新たに加えてお届けします。


エベーヌQに加わってから目まぐるしい日々を送っています。ツアーを主軸に活動していますので、家にいる時間はほとんどありませんが、いろんな国や街を訪れ、そこの文化や人々の生活を肌で感じられる機会が増え、視野が広がったように思います。早朝に移動して3時間の濃密なリハーサルを経てそのまま夜本番という過酷なスケジュールをこなしているので(笑)、健康管理や体力づくりには、より気を遣うようになりました。いまもベルチャQとのブラジルツアーから帰ってきたところで、向こうは真夏だったのに、パリは吹雪いていてすごく寒い。気温差に体がビックリしています。

音楽的な変化では、自分だけで完結するソロと違ってクァルテットは4人で音楽をつくり上げていくので、和声だったり、そのなかでの音程のとり方、聴き方というのが鍛えられました。ドイツ語で「Scharf(シャーフ)」というんですけど、「聴き方の鋭さ」に対する意識がすごく変わりました。あとは音の密度に対する考え方。チェロはベースとして音楽を支える楽器、4人での絶対的なバランスのなかで自分なりの存在感を出していきたいなと。よくメンバーともニュアンスへのこだわりについて話し合っています。そういった面で、追求する方向性がソロとは変わってきたなと感じています。

そもそもクァルテットへの加入のきっかけには、エベーヌQと関わりの深い二人の重要な人物からの推挙がありました。ミュンヘンの大手コンサートマネジメントのヘルトナーゲルさんと、エリザベート王妃国際音楽コンクール以来親交を深めている友人のヴィクトル・ジュリアン=ラフェリエールさんです。ヴィクトルは密かにエベーヌQに推薦してくれていたみたい(笑)。ヘルトナーゲルさんは留学先のアパートの隣人がたまたま親しいご関係にあったという不思議なご縁。僕の話を聞くうちに興味を持ってくれたのか、時々演奏会にも来てくださるようになり、去年のツィメルマンさんとのウィーン楽友協会での本番後、「クァルテットに興味ある?」と声をかけてくださいました。それまでクァルテットに取り組んでこなかったことに少し後悔もあったので、いきなりエベーヌQとは思いつつ一念発起、トライアルに挑戦することにしました。
まずはお試しでラフな雰囲気のなか、3曲ほど合わせてみたら良い反応をいただけて、すぐにツアーに参加することに。僕は余裕もなく必死でくらいついていく感じだったんですが、特にエベーヌQのイメージが強いラヴェルで「何千回も弾いてきたけど、めちゃくちゃ上手くいったよ」と言われて、ものすごく嬉しくて天にも昇る気持ちでした。その後のツアーにも参加させてもらい、今年正式加入となりました。初めて合わせたときから、すごく彼らに魅力を感じていて、音楽的なレベルの高さはもちろん、3人の人柄の良さが心に沁みて、こんな素敵な人たちと一緒に音楽をつくっていけたら幸せだなと思っていたので、本当に嬉しかったですね。

みんなとにかく良い人なんですよ。ピエールはピュアな心の持ち主で、音楽以外の面でも強いこだわりをみせる熱い人。ガブリエルは僕と同じ左利きなので、思考回路が似ているところがあり、共感ポイントが多いです。2ndを担当しているからか、周囲への心配り・気配りが絶妙で尊敬しています。マリーも周りの人の気持ちをすぐに察知して行動するコミュニケーション能力が高い人。隣にいるだけで不思議と安心感があります。先月、ミュンヘンのお寿司屋さんで、30歳の誕生日をメンバーがお祝いしてくれて、みんなからの手紙とクーポン券をもらいました(笑)。ガブリエルから二人でレストランに行ける券を、マリーはショッピングが大好きなので一緒に買い物に行ける券(笑)。僕より年上なのに、そんな遊び心を忘れないところがすごい好きですね。みんな日本が大好きなので、3月の公演を本当に楽しみにしています!

*    *    *

オクテットのツアーが始まって半年ちょっと、ベルチャQともメンバー同士すごく仲が良くて、空き日にはみんなで街を散策したり、ホテルで卓球をしたり、音楽とは離れたところでの付き合いも楽しくて、ツアーが始まる前と比べると、たいぶ打ち解けてきました。和気あいあいとした雰囲気ではありますが、ひとたび音楽に入ると、リハーサルの時からお互いディテールにものすごくこだわります。
エベーヌQはその場のフィーリングで即興的に仕掛け合うこともあるので、本番ではけっこうアドリブも多くいつもヒヤヒヤですが(笑)、それがすごく楽しい。対してベルチャQは全員で話し合いながら音楽を構築していくスタイル。筋道が通ったアプローチは、一緒に演奏をしていてとても勉強になります。例えるなら、音色的に透明度が高いエベーヌQは水彩画で、ベルチャQは油絵。それぞれの魅力がありつつ、混ざり合うと相乗効果でより良いものになる。作品へのアプローチの仕方は違えど、飽くなき探求心は両グループとも共通していて、みんなが同じ方向を向いていることは、すごくラッキーだと思います。

世界ツアーでは当然ながら、音響が異なるホールそれぞれにあわせて演奏を変化させていかなければならない。ステージごとにさらに完成度を高めたものを積み重ねていく過程は新鮮で、とても楽しいです。アントワーヌ・レデルランさんの隣で弾いていますが、バスの声部から道を作って音楽全体をリードしていく術を間近で体感して、すごく刺激を受けました。僕ももっと頑張らないと!って。
なかでも終えたばかりのブラジルツアーの最終日はとくに楽しかった。マリーがメンデルスゾーンのリハーサル中、第4楽章の1stヴァイオリンのカデンツァを「pp(ピアニッシモ)のところはもっと抑えよう」と提案してきたんです。本番、ピエールが抑えに抑えて弾いているのに一音一音のニュアンスが実に絶妙で、クレッシェンド直前にグワーッとエンジンをかけてくるところは秀逸すぎて、みんな思わず舞台上で笑ってしまった。トッパンホールはどんな弱音でもクリアに伝わるので、メンバーがどんな反応をするか、すごく楽しみですね。

3夜連続公演の初日はエベーヌQの単独公演、ブリテンをベートーヴェンで挟んだプログラムを演奏します。ベートーヴェンの音楽には、強烈なエネルギーが宿っていて40~50分の大作になると体への負荷も相当なものですが、ほかの作曲家に比べて音楽への没入感が尋常じゃないので、あっという間に終わってしまう感覚があります。弾いているこちらの気が狂いそうになるほどの情報量が、短い楽章に詰め込まれていたりするんですが、人間くさい部分や滑稽なところもあって、そのストーリーにどんどん惹き込まれ、逆に曲からパワーをもらっています。まだリハーサルを始めたばかりですが、ベートーヴェンにしかないエネルギーを感じていただける演奏になると思います。
ブリテン《3つのディヴェルティメント》は、僕も含めてメンバー全員初めて取り組んだ作品。いろんなキャラクター要素がコンパクトに詰められていて、弾いていても楽しいですし、客席からもちょっとした笑いが起きるほど、とてもチャーミングな曲です。ブリテンのなかではわりと親しみやすいと思います。

*    *    *

2026年は、エベーヌQのベートーヴェン・プロジェクトが始動します。今回トッパンで演奏する第1番と第13番が、僕のなかでは初めてのステップになるので、まずは弦楽クァルテットの基礎となるものをベートーヴェンの作品を通して勉強していき、いろんなジャンルや時代のクァルテット作品への理解を深め、ラファエル・メルランさんがいた頃とは違う、岡本侑也なりの色をエベーヌQに加えられたらいいなと思います。加入したときに「ラファエルと全く同じようなチェリストは求めていないから」と言ってくれて、すごく救われたので、目の前にある課題をひとつずつ消化してさらなる高みを目指しつつ、ありのままの僕でいたいと思っています。
あとはフランス語の勉強を(笑)。短文くらいならフランス語でコミュニケーションをとることもありますが、完全に会話するには…道のりはまだまだ長いです。実はチェリストの笹沼樹くんと同じ先生に習っています。明日もレッスンがあって、ちょっとずつですが進歩は感じています(笑)。

(2024年11月取材)

エベーヌ弦楽四重奏団

2025/3/26(水) 19:00

ベルチャ・クァルテット×エベーヌ弦楽四重奏団

2025/3/28(金) 19:00

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